海外留学助成金報告書

平成22年度
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平成10年度 平成11年度 平成12年度 平成13年度 平成14年度 平成15年度

■ 平成22年度 第1回 ■

大西 哲存

[経過報告]

 本年4月より神戸大学循環器内科から、米国ペンシルバニア州のピッツバーグ大学循環器内科に留学してお ります大西哲存と申します。こちらでは、John Gorcsan 教授の指導のもとコアラボ業務(各国より送られてく る心エコー図の解析、管理)と当施設内の心不全患者に対する心エコー図スキャニング・解析、また実験動物に 対する心エコー図スキャニングも行っております。当初は、医療従事者や患者さんとの英語でのコミュニケーシ ョンはもとより、左手でのスキャニングにも難渋しましたが、4か月が過ぎ何とか任された仕事を順調にこなせ るようになりつつあります。
 渡米直前、直後は多くの難関がありましたが、前任の田中秀和先生はじめ周りの多くの日本人の方々からの温 かい手助けをいただき、安心して仕事、生活のスタートが切れたことに感謝しております。また、異国の地に来 て改めて日本や日本人の素晴らしさに気付いたことも、留学の賜物かと感じております。
 最後になりますが、貴学会におかれましては研究留学者の経済的不遇をご理解いただき、長年の助成を続けて いただいておりますことに深く感謝申し上げます。また、今後も助成受賞者の名に恥じぬよう研究に努める所存 でございますので、引き続きご指導、ご鞭撻をいただきたく存じます。(平成22年9月)


■ 平成22年度 第2回 ■

山田 亮太郎

[経過報告]

本年4月18日より川崎医科大学循環器内科から米国カルフォルニア州のスタンフォード大学メディカルセンター Center for Research In Cardiovascular Interventions (CRCI)に留学させて頂いております。こちらではPeter J. Fitzgerald先生、本多康 浩先生のもと血管内超音波(IVUS)や光干渉断層法(OCT)を中心とした多施設共同臨床研究の解析が行われており、目から鱗が 落ちる思いで日々データの解析を進めております。またカテーテル室でIVUSやOCTを記録する術者のサポートを務めながら、日米のスト ラテジーの違いを直接肌で感じるという大変貴重な体験をさせて頂いております。こちらには日本以外にも韓国、台湾からの留学生も多 く、共に協力しあいながら同じ目標を目指すことは素晴らしいことと感じております。貴学会からの海外留学助成金により伝統ある素晴ら しい研究室に留学することが出来、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。また最後になりましたが、学会主催前で忙しい中にも関 わらず快く送り出して頂いた川崎医科大学循環器内科のスタッフの方々の期待に恥じぬよう日々研鑽に努めたいと思います。


■ 平成21年度 第1回 ■

兵頭 永一

[帰国報告]

 私は2008年9月より2010年12月までアメリカ合衆国、ニューヨーク市マンハッタン(いわゆるニューヨーク )にあるコロンビア大学メディカルセンター循環器内科の本間俊一先生の研究室に留学しておりました。コロン ビア大学メディカルセンターはマンハッタン島の北の端にあり、ハドソン川のほとりに位置します。マンハッタ ンの中心部までは地下鉄で20分程度の距離ですので、いくらでもマンハッタンを満喫することができるすばらし い立地条件でした。マンハッタンには多くの美術館、博物館、劇場やホールがあり、様々な芸術鑑賞を楽しむこ とができます。料金も手頃で、興味があれば誰でもが楽しめるようになっていました。そんなこともあり、私も そういった場所へ足繁く通うこととなりました。
 ただし、マンハッタンはよくコンクリートジャングルと形容されるように、高層のビルが立ち並ぶごみごみし た所ですので、小さい子供連れだった私は住むには適さないと考え、ハドソン川を挟んでマンハッタンに向かい 合うニュージャージー州フォートリーに家を借りました。マンハッタンから車で10分ほど、便利な上に自然あふ れる大変環境のいい場所でした。日本の他大学からの留学生の多くもそこへ住んでいましたので、生活しやすい 所でもありました。
 留学は2年3ヶ月という短い間でしたが、研究のみならず文化や習慣の違いに至るまで、本当にたくさんの経験 を積むことができました。なかでも言語は最も困難を感じたことでした。日本ではある程度勉強していたつもり でも、実際にアメリカに飛び込んでみるとまったく歯が立たず、いったい日本で教わったことは何だったのだろ うかと自問自答する日々でした。日本の英会話学校の先生が、いかに分かりやすい英語を話してくれていたかを 痛感しました。アメリカは、とくにニューヨークは、人種のるつぼと言われているだけあって、話されている英 語も千差万別です。いろんな英語に耳が慣れるのに半年はかかったと思います。更に、自分の言いたいことをそ れなりに言えるようになるまでに半年はかかり、その間自分の思いをうまく伝えることができず落ち込むことも よくありました。でも、2年目に入ると自分の英語にも自信が持てるようになり、たくさんの人と出会って話を するうちに自分の世界が拡がるのを感じ、充実した日々を送ることができました。
 また週末は土日が休みで、もちろん当直もないため家族とゆっくり過ごすことができました。日本にいる間は なかなか休みがとれなかったため、一緒に過ごす時間もなく、子供もあまり懐いてくれなかったのですが、アメ リカでは子供との絆も深まり本当の家族となれた気がしました。週末や休みの日には、近くに住む日本からの留 学生が集まって、バーベキューやキャンプ、海水浴と充実した時間を過ごすことができました。皆同じ境遇のた め、悩みを打ち明けたり、励ましあったりと、これまた日本にいては味わえないような日本人同士のつながりも 経験することができました。苦労も多くありましたが、得たものはそれ以上に多く、若い先生方にも是非留学を 経験していただきたいと思います。
 さて本業の研究ですが、主な研究内容は大動脈弁狭窄症に対しての経皮的大動脈弁置換術(TAVI)に関しての 研究や、3D経食道心エコーにて僧帽弁の形態解析や逆流評価を行っておりました。とくにTAVIに関してはほぼ毎 週数例を見学し、合計100例以上は経験したと思います。これだけの症例を施行している施設は日本にはないと 思いますので、大変よい経験になったと思います。面白いもので、当初50例程度は合併症も多く、疑問に思うこ ともありましたが、その後はほとんど合併症もなくなり、最近は安心して見られる症例が多くなりました。経験 というのは大きいものだと改めて思い知らされました。その他、僧帽弁逆流症に対してのmitral valve clipや perivalvular leakageに対してのclosure deviceを用いた治療など日本ではまだ施行されていない多くの症例を 経験することができました。実際にカテーテルに触れる機会がなかったのが心残りでしたが、今後に生きる経験 だったと思います。その他、他の研究室とのコラボレーションでmouseやratに心エコーを使用して研究を行いま した。mouseのknock outモデルや冠動脈結紮モデルに対して薬の効果を心エコーで評価したり、低酸素状態の ratモデルに対して右心機能の評価を行いました。また開胸下のdogに対してもしばしば心エコーを行いました。 いろいろな動物のエコーができるようになり、これは自分にとっての大きな自信となりました。
 今回の留学で私は研究や世界最新の治療の見学はもちろんのこと、文化、習慣の違いに至るまで非常に多くの ことを学ぶことができました。こうして家族ともども無事留学を終えることができたのは日本心エコー図学会を 始め多くの方のご支援があったからだと思っております。とくに日本心エコー図学会から奨学金による援助をい ただいたことは、経済的に恵まれなかった留学生にとって大変大きな支えとなりました。この場をお借りして厚 く御礼申し上げます。

[経過報告]

 私は2008年10月よりコロンビア大学メディカルセンター循環器内科、心臓血管超音波部門に留学しており 、現在9ヶ月目が過ぎようとしております。コロンビア大学は、米国ニューヨーク州ニューヨーク市マンハッタ ン区に本部を置く、世界的な研究大学であり、ノーベル賞受賞者を多数輩出、全世界から多くの研究者が集まっ ております。そこで本間俊一教授のもと、主として運動負荷中のDyssynchrony評価およびその臨床応用に関して の研究や経皮的(カテーテル的)大動脈弁ステント挿入術における三次元心エコー図を用いた術前、術中、術後 評価を行っております。エコーを用いての臨床、動物実験や大規模研究などを多角的な視点に立って研究が行わ れており、大変勉強になります。また早朝の講義には世界的に著明な先生が多くこられ、そのような先生方の lectureが非常にラフな雰囲気の中毎週聞くことができ、それも楽しみの一つになっております。ニューヨーク という土地柄、多種多様の人種と交流することができ、その過程の中で学ぶことは,他では得がたい貴重な経験 となっております。最後になりましたが、このような素晴らしい環境で研究に従事できますことを深く感謝し、 ご支援くださった貴学会にこの場をお借りし、厚く御礼申し上げます。(2009年6月)


■ 平成21年度 第2回 ■

椎名 由美

[経過報告]

 ロンドンのロイヤルブロンプトン病院(インペリアルカレッジ)の成人先天性心疾患・肺高血圧部門に留 学致しまして、現在2か月目に入っております。クリニカルリサーチフェローの臨床業務としましては、手術や インターベンションの適応となりそうな症例のプレゼンテーション、心エコー、外来業務(診察と家庭医へ返信 等)があります。先天性心疾患のエコーラボに関しましては、成人部門と小児部門は分かれていますが、毎朝の 小児循環器科のカンファと週1回の小児心エコー検査も参加しています。私は循環器内科医でありながら、幸運 なことに日本で多くの指導者に恵まれまして、千葉県循環器病センター・千葉県こども病院にて成人先天性心疾 患のエコーのみならず胎児心エコー・小児心エコーも勉強することができましたので、単純に比較致しますと、 基本的には医療レベルは変わりませんし、ややもすると日本のほうが機械や解析ソフトが進んでいますが、一番 の違いは症例が豊富なこと、成人先天性心疾患のエコーによく精通した医師がいること、ソノグラファーがよく 教育されていることです。
 現在研究を開始するところですが、今後皆様により良い結果をご報告できればと思っております。このような 機会を与えて下さいました吉田清先生、日本心エコー図学会、フィリップスに深く感謝致します。


■ 平成20年度 第1回 ■

麻植 浩樹

[帰国報告]

 私は米国オハイオ州クリーブランドクリニックの心臓血管画像部門にResearch Fellowとして、2008年6月 より2009年1月まで研究留学させていただきました。
 クリーブランドはオハイオ州の北端,五大湖の一つであるエリー湖の南岸に位置しており、アメリカ3大スポ ーツの他、クリーブランドオーケストラやロックンロールで知られるように音楽が充実しています。
   しかし決して大都市と言うわけではなく、市本体は人口約45万人弱,近郊の諸市を含めても200-300万人の中 規模都市です。また少し足を延ばせばカヤホガバレー国立公園や州立公園をはじめとした広大なオハイオの自然 に囲まれることができ、研究の傍ら米国の文化、スケールの大きい自然を楽しむことも可能です。私が住んでい たアパートの敷地内でもリスやシカなどが走り回り、夏になれば蛍も飛び回っていました。留学前に危惧してい た冬の寒さに関しては氷点下20度を下回ることもあり、さすがに厳しいものではありましたが。
 折しも私が留学した2008年のこの時期はアメリカがサブプライムローンに端を発する"100年に一度の津波" といわれる金融危機にみまわれ、激動の1年であったようです。これらが直接我々の研究生活に与えるインパク トは大きくないだろうと考えていたのですが、もともと良くないダウンタウン周辺の治安は以前よりさらに悪化 しているとのことでしたし、研究に関してもNIHのグラントの取得・継続が以前より厳しくなりつつあるよう で、職場においてもいつのまにかTechnicianが解雇されていた、などということもあり、その影響が決して小さ いものではないことが感じられました。このような中で行われたアメリカの大統領選挙も経験することができま したが、11月のシカゴでのオバマ大統領当選演説をやけに感銘を受けながらリアルタイムにTVで見ていたことが 思い出されます。
 私が勤務していましたクリーブランドクリニックはフロリダやカナダ、またアブダビ(UAE)にも分院があり ,スタッフ医師数は1,800人,総従業員数70,000人を抱え,クリーブランド周辺にも数十か所もの分院をもつ 巨大病院群です。2008年10月には、約3年間、総工費数百億円をかけて建設された新ハートセンター (the Sydell and Arnold Miller Family Pavilion) もオープン、同時に市内の新たな交通システムの開通にも関わ っており、クリーブランドの経済をも支えています。2008年のU.S. News & World Report誌の病院ランキングで は総合第4位、心臓血管部門においては14年間連続第1位と評価され、現在も記録更新中です。
 クリニックではこのような環境のなかで数々の基礎および臨床研究が行われていますが、私は心臓血管画像部 門のDr. Takahiro Shiotaの御指導のもと、主にリアルタイム3次元経食道心エコー図法をはじめとした3次元心 エコー図法を用いた研究に従事させていただきました。日本でも広く応用されつつある経食道3次元心エコー図 法ですが、これらを用いることにより心内構造物および周囲構造との位置的関係等のより詳細な評価が可能とあ ると考え、左心耳の形態、人工弁置換術や経皮的僧帽弁輪形成デバイス治療後の評価などを手がけました。クリ ニックでは電子カルテなどのシステムが非常に優れており、パソコンのトラブルなどがない限りは心エコー動画 や所見、電子カルテ、その他の様々な情報が自分のデスクにいながらほとんどすべて一覧できます(あのGoogle もwebを利用した個人カルテ連動サービス;Google Healthの試験においてクリーブランドクリニックを提携先に 選びました)。3次元心エコーやストレインエコーなどのさまざまな解析ソフトもすべて同じオフィスにあった ので、居ながらにしてほぼ全ての解析が済んでしまうという恵まれた環境にありました。
 その他,クリニックでは毎日どこかでカンファレンスが開かれており、Grand RoundやMorbidity & Mortality (M&M) 、その他種々のレクチャーが行われています。Fellowの研究発表やJournal Club, 学会の予演会も時折行 われますが、この際にはFellowも自らをアピールするためにかなり気合の入った発表を行っていました。月に一 度はCardiovascular MedicineのChairであるDr. Steven Nissen によるChairman Conferenceもあり、目の前で 大規模試験の批判や医療制度などについて、熱弁をふるっておられました。このような教育的アクティビティの 充実は日本も見習うべき点があるように感じられます。
 最後になりましたが、このような貴重な機会をご支援くださった貴学会およびフィリップスエレクトロニクス ジャパン社に心から厚く御礼申し上げます。(2009年12月)

[経過報告]

 私は2008年6月より米国オハイオ州クリーブランドクリニックの心血管画像部門に研究留学をさせて頂いて おり、現在はや6ヶ月が過ぎようとしております。
 当施設の心臓血管部門はU.S. News & World Report誌の米国における病院ランキングで今年も第1位と評価さ れ、これで14年連続となったようです。今年の10月には約3年をかけて建設された新ハートセンターもオープン しており、これらの最新鋭の設備のもと、心臓移植、大動脈弁形成手術、経皮的大動脈弁置換術や年間120件の ロボティック手術など世界の最先端の治療が行われています。
 当施設ではこのような非常に恵まれた環境のなかで数々の基礎および臨床研究が行われていますが、私はDr. Takahiro Shiotaのもと、現在主に3次元心エコーを利用した僧帽弁の形態・機能評価に関する研究を行ってお ります。また、私が渡米してからの数ヶ月間の間にもここアメリカの社会・経済は大きな変化を迎えており、そ の中で行われた大統領選挙の一部始終をリアルタイムで体験することができたことなど、こちらでの生活も非常 に貴重な経験となっております。最後になりましたが、このような環境のもとで臨床研究に従事させて頂ける事 を深く感謝し、ご支援下さった貴学会およびフィリップスメディカルシステムズ社に心より厚く御礼申し上げま す。(2008年12月)


■ 平成20年度 第2回 ■

久米 輝善

[帰国報告]

 私は日本心エコー図学会、フィリップスエレクトロニクスジャパン社のご支援により、2008年9月より 2011年3月までスタンフォード大学医学部Center for Research In Cardiovascular Interventions (CRCI)に留 学させて頂きました。私が所属したCRCIではPeter J. Fitzgerald先生、本多康浩先生のもと、血管内超音波 (Intravascular Ultrasound、IVUS)を中心とした多施設共同臨床試験の解析がなされています。新しい冠動脈ス テントに関わるIVUS研究では世界でも有数の研究室で、これまでに日本からも多くの先生方が留学され、すばら しい業績を残してこられました。
 スタンフォード大学はカリフォルニア州パロアルトに位置し、周囲にはグーグルやインテル、アップルなど多 数の先端技術企業がその本拠地を置いております。サンフランシスコとサンノゼの両都市間を結ぶ地域は、古く からシリコンバレーと呼ばれており、産学協同の学の中心としてスタンフォード大学はシリコンバレーに欠かせ ない存在として機能しております。そもそもスタンフォード大学は、大陸横断鉄道の創立者であるスタンフォー ド氏が、若くして亡くなった息子(Leland)を偲んで、1891年に設立された私立大学で正式名称はStanford Leland Jr. Universityであります。現在では7つの学部、65の学科、他に30余りの付属の研究機関が、東京ドー ムの800倍以上の広大な土地につくられ、多くの学生や世界各国からの留学生や研究者で賑わっております。大 学構内といえども徒歩で移動するのは困難で、学生は主に無料のシャトルバスか自転車を利用しております。大 学構内には大学独自の消防署や警察制度、ホテル、教員の住宅や学生のアパート、ショッピングセンターなどが あります。行政上もスタンフォード市として認識されており、まさに巨大な学園都市になっています。カリフォ ルニアの温暖な気候、大学周辺の治安は申し分なく、また日系スーパーや本屋、日本食レストランも多数あり、 家族が生活する上ではこれほど恵まれた環境はないというのが正直な印象です。
 留学期間中に、薬剤溶出性ステントのアキレス腱ともいうべきステント血栓症のIVUS画像解析に携わることが できました。本邦で行われたステント血栓症の医師主導型大規模レジストリーであるRESTARTレジストリーにお いて、IVUSを施行された症例の画像解析という大変貴重な経験をさせて頂きました。シロリムス溶出性ステント 留置後の超遅発性ステント血栓症症例では、早期・遅発性ステント血栓症症例と異なり、著明な血管の陽性リモ デリングを認め、また、ステント留置直後の冠動脈プラークの量と、陽性リモデリングとの間には有意な逆相関 があることを、多数のステント血栓症症例で確認することができました。RESTART IVUSレジストリーはステント 血栓症症例のIVUS所見をコアラボ解析した世界で初めての多施設レジストリーで、これまでその稀な発症頻度の ため、多数例での詳細な観察が困難であったステント血栓症の特徴的所見を直接比較検討することが可能でした 。これらの研究はAHAやTCTの年次集会で発表する機会を得ることができ、RESTARTレジストリーに協力頂いた方 々に、この場をお借りし厚く御礼申し上げます。
 留学中は、アメリカ人だけでなく中国・韓国・台湾からの留学生とも交流する機会がありました。スタディ内 容の議論だけでなく、文化や価値観の違いなど、仲の良い友だからこそできる深い議論を通じて、日本人として のアイデンティティを再認識するとともに、物事を捉える視野が広がったように思います。また、スタンフォー ド大学では、循環器領域の日本人研究者だけで20人以上在籍しておりました。他ラボに所属している研究者の方 々と、スタディで直接コラボする機会はありませんでしたが、同郷人として有意義な交流をさせて頂きました。 それぞれ専門は異なりますが、今後、彼らとAHAやACC、ESCなどの国際学会や、日本循環器病学会年次集会など で再開することが、学会参加の楽しみの一つになっております。帰国後は、川崎医科大学循環器内科に帰局し、 医師として日常診療に携わっておりますが、留学で培ったリサーチマインドを忘れずにいたいと思っております 。
 最後になりましたが、留学の機会を与えて下さった吉田清先生をはじめ、ご支援をいただいた先生方に心から 感謝いたします。留学生活を大変有意義に過ごす事ができ、今、こうして無事に終えることができましたのは、 言うまでもなく多くの人に支えて頂いたお陰です。また資金面で支援していただきました日本心エコー図学会、 フィリップスエレクトロニクスジャパン社の方々にこの場をお借りし、御礼申し上げます。有難うございました 。

[経過報告]

 スタンフォード大学医学部のCenter for Research In Cardiovascular Interventions (CRCI)という研究 室に留学し、3ヶ月が経過しています。本研究室ではPeter J. Fitzgerald先生・本多 康浩先生のもと、血管内 超音波(Intravascular Ultrasound)を中心とした多施設共同臨床試験の解析がなされています。世界中から送ら れてくる血管内超音波画像を、1症例あたり数時間かけて3次元的に解析しているので、私はまだ1日数症例ずつ しか解析できませんが、血管内超音波画像への理解が深まり、また、現在進行中の大規模臨床試験に携わるとい う大変貴重な経験をさせて頂いております。貴学会からの海外留学助成により、これまで多くの先輩方が留学さ れ、すばらしい結果を残されてきた歴史ある研究室に留学することができ、この場をお借りして厚く御礼申し上 げます。(2008年12月)


■ 平成19年 第2回 ■

髙﨑 州亜

[帰国報告]

 2007年11月より2008年12月まで、クリーブランドクリニック心臓血管イメージング部門のResearch Fellowとして留学させて頂きました。
 クリーブランドクリニックは、U.S. News & World Report誌の2008年度America's Best Hospitalsにて総合 第4位、Heart & Heart Surgery部門においては14年間連続第1位を獲得しました。2007年度のデータでは、心臓 血管センターを訪れた患者は30万人、心エコー52000件、心臓カテーテル検査1万件、開胸手術3400例(そのうち 弁膜症手術2100例)、心臓移植69例、ロボティック手術が115例行われました。2008年10月には、総工費数百億 円をかけて最新鋭のシステムと設備を備えた新ハートセンター (the Sydell and Arnold Miller Family Pavilion) が完成しました。敷地面積は30万平方メートルで、ハートセンター単独としては全米最大規模です。 病室は全て個室で278部屋、ICUは冠疾患用・心不全用・外科用など全て合わせると90床、カテーテル検査室20部 屋、手術室16部屋という巨大循環器専門ビルディングです。オープニング式典では、コンサート会場並みの音響 映像機器と収容人数を備えた仮設テントを病院中庭に設営し、マスコミを含めた関係各所への宣伝が行われまし た。こうした広告媒体を最大限に利用したイメージ戦略は、病院といえどもビジネスであることをまざまざと感 じさせるものでした。
 クリーブランドクリニックは、北米オハイオ州のエリー湖南岸に位置するクリーブランド市にあります。全米 一の病院としてのクリーブランドクリニックのイメージとは裏腹に、クリニックの周辺には閉鎖した工場やビル の廃墟が目立ち、ダウンタウンに至る地域にはスラム街が広がっており、2004年と2006年には全米で最も貧しい 都市にランクされたほどです。1950年代をピークに栄えた鉄鋼業・自動車産業が産業構造の変化とともに衰退し 、これに伴い人口も年々減少し続け、現在は人口50万人以下にまで減っています。しかしながら、廃墟と化して いた倉庫群や中央市場の跡地に野球場とアリーナを中心とするスポーツ・エンターテイメント複合施設を建設す るなどの市の再生計画により、「廃墟の街」から「カムバック・シティ」へと再活性化の効果はある程度表れて いるようです。クリーブランドクリニックは今やサテライト病院を含めると3万人を越えるクリーブランド最大 の雇用主であり、この街の経済を支えていると言っても過言ではありません。ただし、貧富の差を表すように黒 人居住区であるダウンタウンと郊外の白人居住区がはっきりと分かれており、貧民区域の治安悪化は今も依然と して問題になっています。日本で当たり前に思っていた便利さや安全性のほとんどが、アメリカでは得がたいも のであるというのが、今回の留学生活を通して最も強く感じた実感です。
 研究に関しては、心血管イメージング部門の塩田隆弘先生ご指導のもと、豊富な弁膜症の手術症例を生かした 心エコー図に基づく臨床研究を行いました。僧帽弁閉鎖不全症例では、手術時期の決定において術前心機能評価 が非常に重要ですが、左室駆出率は心機能を過大評価してしまう問題点が指摘されています。心時相解析から得 られる心機能指標であるTei indexは比較的容量負荷非依存性と考えられるので、駆出率ではマスクされてしま う心機能障害を検出可能であるという仮説を立て、術前のTei indexと術後の左室駆出率との関係を検討しまし た。その結果、術前左室Tei indexと術後左室駆出率との間に有意な負の相関関係があり、Tei index>0.5を用い ることで、術後に明らかとなる心機能障害を術前に予測可能であるという結果を得ました。これは特に、無症状 の僧帽弁閉鎖不全症例の手術適応を検討する際に有用な指標になり得ると考えています。この内容は、American Heart Association (AHA), Scientific Sessions 2008にて発表し、The American Journal of Cardiologyに掲 載予定です。
 最後になりましたが、このような貴重な機会をご支援くださった貴学会およびフィリップスエレクトロニクス ジャパン社に心から厚く御礼申し上げます。(2009年1月)

[経過報告]

 2007年11月よりクリーブランドクリニック(米国オハイオ州)心臓血管イメージング部門にResearch Fellowとして留学させて頂き、現在3ヶ月目となります。当クリニックは、U.S. News & World Report誌の 全米病院ランキング心臓血管部門において13年連続一位の座を維持しており、心臓血管内科・外科ともに全米ト ップクラスのレベルを誇っています。
 クリニックは複数の建物からなる大きな病院ですが、新たに最新 鋭のシステムと設備を備えた新ハートセンターが今年の秋完成予定です。手術室16部屋、入院ベッド数288床、 ICUベッド数138床という巨大循環器専門ビルディングで、今から完成が楽しみです。
 私の所属する心臓 血管イメージング部門は、年間5万件ほどの心エコー検査が行われ、塩田隆弘先生・James D. Thomas先生を中心 に、臨床・研究ともに精力的な仕事がなされています。心エコーは、特に心臓手術症例において最も重要な役割 を担っておりますが、ソノグラファー・心臓内科医(心エコー専門医)・心臓外科医とが密に連携して理想的な 診断治療が行われています。3Dエコーを含めた全ての心エコー画像が、院内ネットワーク内で閲覧可能です。 私は現在、塩田隆弘先生の指導のもと僧房弁閉鎖不全症例の心機能に関する研究を行っております。
 現 在アメリカ大統領予備選挙の真っ只中ですが、この国における社会構造や生活についても見識を深めたいと考え ています。
最後になりましたが、このような貴重な機会をご支援くださった貴学会およびフィリップスエ レクトロニクスジャパン社に心から厚く御礼申し上げます。(2008年2月)


■ 平成18年度 第1回 ■

武井 康悦

[帰国報告]

 私は2006年10月より2008年9月までの二年間、アメリカ合衆国ニューヨーク市マンハッタンにありますコロ ンビア大学メディカルセンター循環器内科、本間俊一教授のもとに留学しておりました。留学中は主として経皮 的(カテーテル的)僧帽弁形成術や大動脈弁ステント挿入術における三次元心エコー図を用いた術前、術中、術 後評価や高周波収束超音波法(High Intensity Focused ultrasound: HIFU)を用いた心筋組織ablation(主に 心房組織や石灰化した大動脈弁に対するablation)の基礎実験にも携わっておりました。また北部マンハッタン の住民に対し、心エコー図、血管エコー図を用いたコホート研究(Northern Manhattan Study: NOMAS)が行わ れており、これはエコーを利用したEBMとも呼べるもので、私たちも研究に参加しておりました。
 弁膜症に対する治療法については、今後ますます高齢化がすすむ中、従来の薬剤か手術かといった二者択一で はなく、さらにカテーテル治療も含めた様々なオプションが求められるのは言うまでもありません。これらの新 しい治療法に対し心エコー図を用いて適切に評価した上で、一般臨床に応用されるようになることを願い、私た ちも研究に参加しておりました。現在は経カテーテル的アプローチと従来の手術療法とを無作為に割り付けし、 生存率や合併症発生率、また術後の心収縮能、心拡張能、心筋重量、左房容積の推移などのデータを集めている 状況です。これらのデータのほとんどは心エコー図から得られたものです。アメリカでは様々な形態の臨床治験 が行われておりますが、心エコー図を巧みに利用し、質の高いエビデンスが作られている過程をみることは私た ちにとって大変勉強になった点でありました。
 HIFUについては、コロンビア大学biomedical engineering部門やベンチャー企業との共同作業で実験を進めて いました。これまで基礎的な実験では心室筋や正常僧帽弁、大動脈弁に対するablationをin vitro, in vivoで 行ってきました。実際に臨床に応用されるにはまだまだ工夫と時間が必要ですが、心室筋や正常弁だけでなく、 心房組織、変性弁(ヒト石灰化大動脈弁)に対しても応用可能であることが私たちの実験で明らかになりました 。
 NOMASは1993年頃から北部マンハッタン地区の住民に対して行われたコホート研究で、主任研究員はコロンビ ア大学神経内科の元directorであったDr. Ralph L. Saccoです。Framingham研究が主に心疾患に重きを置いてい たのに対し、このNOMASは脳卒中に重点を置いており、一次予防、二次予防だけでなく、心原性脳卒中の関与と しての左室肥大、左房拡大、卵円孔開存、頚動脈や大動脈プラークの評価をエコー図にて行っておりました。特 に積極的に経食道心エコー法を用いてコホート研究を行っているところは大変興味深いところです。またNOMAS のもう一つの特徴は白人、黒人、中南米系(ヒスパニック)のレジストリーがあり、人種間の研究ができるとい う点です。この点は北部マンハッタンの特徴とも言えると思います。NOMASは神経内科、循環器内科のスタッフ だけでなく、公衆衛生(public health)のPh.D達やプログラマーなど、医師以外の専門職の方々が多く参加し ており、カンファレンスも多く大変勉強になります。人種の他、食生活やsocial economic statusなどの要素も 基礎データに含まれており、アメリカの状況を反映した独特の研究となっています。私は主に左室肥大と炎症マ ーカーについて研究を行っておりました。
 アメリカでは、施設スタッフが独自にグラントを申請してそれぞれ独特の研究をしている場合も多いのですが 、最近では他施設共同研究が盛んでおり、いまやアメリカだけでなくヨーロッパ、中南米、アジアの施設も含ん だ共同研究が進みつつあります。疫学の分野では地域差、人種差、経済的格差などはもはや無視することのでき ない項目です。エコー図から得られたデータもこれらの事項を考慮に入れて、それぞれの場面で利用することが 求められます。そのような意味においても日本人独自の正常、異常値のコンセンサスを持つことはとても大切な ことだと思っています。
 慣れない土地での新たな生活、苦労することも多くありますが、すばらしい環境の中で様々な経験を積むこと ができたことは自分にとって大きな宝物と思っております。コロンビア大学ではエコーを用いて臨床、動物実験 や大規模研究などを多角的な視点に立って研究が行われており、大変勉強になりました。また今回の留学に関し ては研究だけでなく、生活などさまざまな面において、他大学、他組織の先生との交流が何より貴重な経験とな りました。異国の地で共に協力しあえることは素晴らしいことだと感じております。最後になりましたが、この ような貴重な支援をいただきました日本心エコー図学会、およびフィリップスエレクトロニクスジャパン社の方 々にこの場をお借りし、厚く御礼申し上げます。(2008年11月)

[経過報告]

 私は2006年10月よりアメリカ合衆国ニューヨーク市マンハッタンにありますコロンビア大学メディカルセ ンター循環器内科、本間俊一教授のもとに留学しております。主として経皮的(カテーテル的)僧帽弁形成術や 大動脈弁ステント挿入術における三次元心エコー図を用いた術前、術中、術後評価や高周波収束超音波法を用い た心筋ablationの動物実験に携わっています。また北部マンハッタンの住民に対し、心エコー図、血管エコー図 を用いたコホート研究が行われており、これはエコーを利用したEBMとも呼べるもので、我々も研究に参加して おります。エコーを用いて臨床、動物実験や大規模研究などを多角的な視点に立って研究が行われており、大変 勉強になります。今回の留学に関しては特に大阪市立大学の先生方には大変お世話になりました。研究だけでな く、生活などさまざまな面において、異国の地で共に協力しあえることは素晴らしいことだと感じております。 最後になりましたが、このような貴重な支援をいただきました日本心エコー図学会、およびフィリップスエレク トロニクスジャパン社の方々にこの場をお借りし、厚く御礼申し上げます。(2007年2月)


長谷川 拓也

[帰国報告]

 私は2006年7月より2008年5月までアメリカ合衆国ニューヨーク州のColumbia University Medical Center の循環器内科にResearch Fellowとして留学させていただきました。Columbia University Medical Centerはマ ンハッタン島の北端にハドソン川に面して立っており、エコー室の窓からはハドソン川にかかるGeorge Washington Bridgeがとてもきれいにみえます。George Washington Bridgeは全米でも4番目に長い吊り橋で非 常に美しく、コロンビア大学医学部にかかわる施設紹介、リサーチのシンボルマークにときどき登場します。し かしながら病院の近隣は観光ポイントの多いミッドタウンからは離れており、数年前までは治安の悪いことで有 名な地域でありました。渡米間もない頃、通勤途上でパトカーの激しいカーチェイス、大柄な警官達が大柄な容 疑者を取り押さえる現場を、続けて間近でみたこともあり、当初は通勤にも少々(結構)びびっていました。
 私が所属していた心エコーラボは本間俊一教授を中心として診療、ラボ内の臨床研究に加えて、神経内科や他 の施設との共同研究を盛んに行っております。私が携わった主な研究は、マンハッタン北部の住民を対象とした コホート研究(Northern Manhattan Study; NOMAS)です。NOMASはコロンビア大学医学部の神経内科部門が主と なって脳卒中の原因、発症予測をみる研究で、私の属していた心エコー部門は心エコー、及びflow-mediated vasodilatation (FMD)の計測をすることで研究に参加をしておりました。NOMASの特徴は、研究対象(母集団) に白人のみでなくヒスパニック(スペイン語を母国語とする中南米系アメリカ人)、黒人が多く含まれているこ とです。アメリカ合衆国ではヒスパニック人口が、移民などにより急激に増加しており社会問題となっておりま す。定住人口が増えれば、心疾患など病気の発症も多くなるわけですが、人種が違えば疾患の発症頻度、発症予 測因子のパワーも違ってきます。NOMAS開始当初までにアメリカで行われてきた多くのコホート研究が白人中心 の集団であり、人種差を考慮した研究は多くありませんでした。私たちResearch Fellowはこの研究のデータを 使って解析、研究をしてもよいといわれておりましたので、私はFMDの健常者集団における意義を中心に検討し ました。FMD計測は時間帯、食事などに影響を受けること、計測に手間がかかることもあり非常に手間と根気を 要しますが、中国から移民してきた女性エコー技師さんを中心としてこつこつと件数を重ねて、約900人のデー タがありました。私はFMDと左室心筋重量の関係を人種別に検討し2007年のAmerican Heart Association(AHA) の年次集会で発表させていただきました。またFMDとインスリン抵抗性の関連について、2008年のAHA年次集会で 発表させていただく予定です。これらの研究を通して、人種や社会背景の違いにより既知のエビデンスのインパ クトが異なってくることを実感し、我々日本人を含むアジア人を対象とした研究が必要であることを再認識しま した。
 本間ラボのもう一つの特徴は、企業や工学系の研究者との共同研究です。以前よりHigh Intensity Focused Ultrasound (HIFU)による心筋焼灼術、3Dエコーの研究が活発でありました。私が留学している間にもHIFUの基 礎的研究が続いておりましたが、私は主に3Dエコーの研究に関わりました。具体的にはコロンビア大学の Biomedical Engineering部門の大学院生と3Dエコーを用いた心筋ストレインや左室壁運動を定量評価するソフト の開発と、その基礎実験のデータ集積です。臨床経験しかない私にとって、開胸犬を使った動物実験は非常に貴 重な経験でした。また動物保護の視点が厳しく、倫理委員会の承認を得たプロトコール通りに行われているかど うかを監視する専属の方が配されており、さらに"動物実験施設ということがわかると過激な動物愛護団体の攻 撃の標的にされるので、建物の入り口には建物の名称を掲げていない"というお話をききお国柄の違いを感じま した。
 最後に、本間俊一先生、中谷敏先生を初め、このようなすばらしい機会を与えていただきご支援をいただいた 方々、そして資金面で助けていただいたフィリップスエレクトロニクスジャパンメディカルシステムズ社に心か ら感謝いたします。この経験を生かして、心臓超音波検査のさらなる発展に貢献できるよう精進いたします。( 2008年9月)

[経過報告]

 私は2006年7月よりアメリカ合衆国ニューヨークにあるColumbia Presbyterian Medical Centerの心エコー 研究室に留学させていただいております。当研究室はコロンビア大学内のBiomedical Engineering 部門との共 同研究が盛んでHigh Intensity Focused Ultrasound(HIFU)を始め、3D心エコーを利用したソフトウェアの 開発、小動物に対する心エコー装置の開発などが行われております。またNorthern Manhattan Study(NOMAS) という脳卒中に関連した大規模研究を循環器内科の立場から再解析を行うという仕事もあります。もちろん自ら 研究計画を立てて臨床現場で心エコーを用いて研究をされている先生もおられます。ニューヨークの治安状況は 以外に落ち着いておりこれまでは幸い危険な場面に遭遇することなく過ごすことができました。生活、仕事の立 ち上げでは私のつたない英語ではどうにもならないこともありました。しかし当研究室の本間俊一教授、先輩の 日本人研究者の方々を始め多くの方々にお世話になり、渡米後3ヶ月間を無事過ごすことができました。このよ うな貴重な経験をする機会をご支援をいただいた貴学会にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。(2006年10月 )


松村 嘉起

[帰国報告]

 私は2006年4月より2008年7月までの間、米国オハイオ州にあるクリーブランドクリニックの心血管画像部 門に留学しました。クリーブランドクリニックのハートセンターは、U.S.News & World Report誌の"America' s Best Hospitals"のHeart and Heart surgery部門で1 4年連続1位を維持しており、米国で最も大規模なハー トセンターの一つです。このハートセンターの塩田隆弘教授の研究室で多くの経験をさせて頂きました。
 塩田隆弘先生はJames D. Thomas先生を始めとする他のスタッフの先生方と並んで、ほとんどの時間を臨床業 務に従事しておられるので、自ずと研究テーマは実際に日常臨床から出てくる病態に関する疑問点や治療法に関 することが中心となります。私も日常臨床に直結するいくつかの研究に携わらせて頂きました。私の研究テーマ は大きく分けて2つあり、1つは3次元心エコーのカラードプラ法を用いた機能性僧帽弁逆流の定量に関する研究 で、もう1つが大動脈弁狭窄に対する大動脈弁置換術前後の左室収縮能や機能性僧帽弁逆流の変化に関する研究 です。そのうちの一部を報告させて頂きます。
 まず、3次元心エコーを用いた機能性僧帽弁逆流の定量に関する研究に関して報告させて頂きます。一般に僧 帽弁逆流の重症度は、有効逆流面積(EROA)で0.2~0.3cm2を軽症、0.3~0.4 cm2を中等症、0.4 cm2以上を重症 と判断されますが、機能性(虚血性)僧帽弁逆流の場合はEROAが0.2cm2以上であれば予後に影響を及ぼすと報告 されています。この重症度のカットオフ値の違いの原因は、機能性僧帽弁逆流を合併する症例では左房、左室の コンプライアンスが悪いためと一般には推察されていますが、実際のところは不明です。我々は機能性僧帽弁逆 流において、僧帽弁逆流のPISAの形態が半球体であるという仮定を用いたPISA法をその定量評価に適応すること に問題があると考えました。そこで3次元心エコーのカラードプラ法を用いて、機能性僧帽弁逆流と僧帽弁逸脱 による逆流のPISAの形態の違いを明らかにし、その形態の違いがPISA法に及ぼす影響について検討しました。結 果は、僧帽弁逸脱による逆流のPISAの形態は半球体に近い形態であるのとは異なり、機能性僧帽弁逆流のPISAは 僧帽弁前尖、後尖の接合線に沿った半楕円体の形態をしているため、心尖部四腔像や心尖部長軸像でPISA法を用 いてEROAを算出すると、連続の式から算出したEROAと比較して過小評価することを示しました。よって、この PISA法による過小評価が、機能性僧帽弁逆流の重症度のカットオフ値に影響を与えている可能性が示唆されまし た。この研究は前向きに症例を集めたため、Sonographer達に協力してもらい、機能性僧帽弁逆流と僧帽弁逸脱 の症例の3次元心エコー画像データを収集しました。
 次に大動脈弁狭窄に対する大動脈弁置換術前後の左室収縮能や機能性僧帽弁逆流の変化に関する研究について 報告します。これらの研究はクリーブランドクリニックの膨大な手術症例(大動脈弁置換術)のリストを用いて 、後向きに患者を集めて検討を行いました。まず、リストの中から、術前に冠動脈疾患を合併せずに左室収縮能 が低下している症例を選び出し、術後のEFに関連のある術前の心エコーの指標について、多変量解析を用いて検 討しました。その結果、術前のEF、ESVI(左室収縮末期容量/体表面積)と並んで、拡張末期のSphericityも独 立した予測因子であることがわかりました。また、同じ大動脈弁置換術のリストの中から、術前に中等症以上の 機能性または虚血性の僧帽弁逆流を合併している症例で、僧帽弁に対して外科的治療を行っていない症例を選び 出し、大動脈弁置換術後に僧帽弁逆流が残存している症例と減少している症例について検討を行いました。この 研究に関しては現在、引き続き解析を行ない論文を作成しています。これらの研究はいずれもAHAやACCの年次集 会で発表する機会を得ることができ、貴重な経験をさせて頂きました。
 クリーブランドクリニックでは、これらの臨床研究に携わった以外にも貴重な経験をさせて頂きました。 ResidentやClinical fellowと共に、ランチカンファレンスに参加し、最新治療の講義や珍しい症例検討、他施 設の先生の講演などを聞いたり、同僚のResearch fellow、研究に興味を持っているClinical fellowと臨床研究 について討論もしました。この様な日常の些細なことでも、全て良い経験であったと思います。
 アメリカに留学したことによって、アメリカ人は勿論、世界各国からアメリカに来ているResearch fellowと 交流し、様々な国の国民性、価値観、問題などにも触れることができたことも大きな収穫の一つです。彼らとの 会話の中で、日本、アメリカを含む世界各国の関係についてよく考えるようになったと思います。彼らとはそれ ぞれが自国に帰った後にも、Eメールで交流は続けており、今後、彼らと再会することが、海外学会に出席する 楽しみの一つになりました。
 2年4ヶ月間のクリーブランド生活で、公私共に色々と勉強させて頂きました。アメリカ留学という貴重な機会 を与えて下さった吉川純一先生、葭山稔先生をはじめ、援助して下さった先生方に心から感謝を申し上げます。 最後になりましたが貴学会、フィリップスメディカルシステムズ社からの留学助成に感謝し、これからも心臓病 学、心エコー図法の発展に役立つ研究ができるよう努力を続けていきたいと思います。本当に有難うございまし た。(2008年9月)

[経過報告]

 私は2006年4月より米国オハイオ州クリーブランドクリニックの心血管画像部門に研究留学をさせて頂いて います。当施設のあるクリーブランドは五大湖の一つであるエリー湖の南岸に位置し、森林、自然と文化の調和 が取れた都市で、別名Forest Cityとも呼ばれています。クリーブランドクリニックの心臓血管部門はU.S. News & World Report誌の米国における病院ランキングで、12年連続1位と評価され、年間5500例余りの開心術、 約50000件の心エコー図検査を行っています。冠動脈バイパス術発祥の施設である当施設ではありますが、冠動 脈外科はもちろん、現在は各種の心臓弁膜症の手術においても世界の最先端にあり、弁膜症の病態解明、および 治療方法に関して多くの研究がなされています。この中で、私は主に3次元心エコーを利用した機能性僧帽弁逆 流についての研究をしています。機能性僧帽弁逆流は予後の増悪因子であることが分かっていますが、その出現 のメカニズムや最適な治療方法は、未だ確立していません。今後、更なる病態解明、治療法開発に向けて、少し でも貢献できるように、日々研鑽に努めたいと思います。最後になりましたが、このような素晴らしい環境のも とで研究させて頂ける事を深く感謝し、ご支援下さった貴学会およびフィリップスメディカルシステムズ社に厚 く御礼申し上げます。(2006年7月)


■ 平成18年度 第2回 ■

岡橋 典子

[帰国報告]

 2007年9月1日から2008年9月までの1年間、EMORY University HospitalのECHO/VASCULAR Labに留学させて いただき、帰国いたしましたので御報告申し上げます。
 留学先であるEMORY University Hospitalは、米国ジョージア州アトランタにあります。現在のアトランタは 、世界最大の国際空港を有する、南部を代表する大商業都市で、コカ・コーラやデルタ航空・UPSなど全米屈指 の大企業や世界のニュースを24時間伝えるCNNの本社が置かれ、ダウンタウンには、近代的なビルや巨大な会議 場がひしめき合い、ビジネスタウンの覇気が満ち満ちています。一方、ダウンタウンを一歩離れると、豊かで深 い森に囲まれた穏やかな田舎町の生活もでき、自然との調和のとれたとても過ごしやすい町です。また、"サザ ン・ホスピタリティー(Southern Hospitality)"という言葉に代表されるように、町の人々は、気さくでおおら かで温かく、個人主義のイメージが強いアメリカにおいて、一種特異とさえ感じるほどでした。
 エモリー大学は、アトランタの北東部に広大な敷地を有し、School of MedicineのほかにSchool of LawやArt and science, Business schoolなど8つのSchoolから構成されている歴史ある大学です。大学のキャンパスは、 ダウンタウンから車で15分足らずの距離ながら、深い緑に包まれ、静かで落ち着いたとても良い環境にあります 。そのキャンパスの中心にエモリー大学医学部と大学付属病院・付属研究機関があり、わたしは、大学病院内の ECHO/VASCULAR Labにリサーチフェローとして所属し、主に、三次元心エコー図を用いた心臓弁膜症に関する三 次元形態の解析を行いました。
 エモリー大学病院の規模は、米国一般の州立大学に比べると比較的こぢんまりとしているようでしたが、U.S. News年次調査のHeart/Vascular部門において、常にトップ10にランクされるなど、高い医療水準を誇っており、 エコー室では、各分野のエキスパートが頻繁に出入りし、学生やフェローも含めた活発なdiscussionが繰り広げ られていました。わたしは、ボスであるDr. Martinらと共に、エコー室に常駐していたわけですが、ボスをはじ めとしたラボの仲間はみな、気さくで親切で、何かあるたびに声をかけられ、どこにいても違和感のない環境の おかげで、わたしは非常に動きやすく、エコー室のほかに病棟・カテ室、時には、救急外来や手術にも立ち会わ せていただくなど、実際の臨床の現場を肌で感じる機会も多く、毎日が新鮮で刺激的でした。わたしの留学開始 時期とほぼ同時期に、3D経食道心エコーが導入されたこともあり、まだ使い勝手の分からない1症例目からほ ぼ全例において、検査終了後に施行医やsonographer達と一緒に分かりやすい3次元画像の撮影テクニックや、三 次元画像の有用性・問題点を症例ごとに検討する機会があったことは、3次元画像を臨床現場で活かすための評 価基準を考える上で大変役立つ経験でした。
 研究課題の遂行にあたっては、IRBへの研究プロトコール提出や画像収集の許可などに思った以上に時間が かかり、書類手続きや情報管理の複雑化にやや悩まされもしましたが、留学中には、フェロー教育を目的として 行われる院内外のカンファレンスやセミナーにも数多く参加させて頂き、多くの医学生・フェローやコメディカ ルと交流する機会があり、学術面のみならず、日米間の医療・教育システムの違いや、チーム医療のあり方、ひ いては、各国の医療事情などにも話がふくらみ、非常に興味深い時間でした。EMORYで出会った友人たちは 、みな、夢があり、バイタリティーにあふれ、たくさんの刺激を受けました。
 このように、毎日が楽しく、安定し、有意義な留学生活が送れたことは、Dr. Martinをはじめとするラボの仲 間のサポートのおかげであり、この素晴らしい出会いに感謝したいと思います。また、アメリカ留学という貴重 な機会を与えて下さった吉田清先生、あたたかく送り出して下さった川崎医大循環器内科の諸先生方に心からお 礼申し上げます。最後になりましたが、留学にあたり、ご支援をいただきました貴学会およびフィリップスメデ ィカルシステムズ社にこの場を借りて厚くお礼申し上げます。(2008年12月)

[経過報告]

 私は、2007年9月から米国ジョージア州アトランタにあるエモリー大学循環器内科の心血管画像部門に留学 させていただいております。エモリー大学はアトランタの北東部に広大な敷地を有する歴史ある大学で、ダウン タウンから車で15分足らずの距離ながら、深い緑に包まれ、静かで落ち着いたとても良い環境にあります。その エモリー大学の中心にエモリー大学医学部と大学付属病院があり、わたしは、大学病院内のECHO/VASCULAR Lab にリサーチフェローとして所属し、Dr. Randolph P. Martinらとともに、三次元心エコー図を用いた心臓弁膜症 に関する三次元形態の解析を行っています。ラボの規模は、比較的こぢんまりとしていてアットホームな雰囲気 です。南部気質も手伝ってか、みな気さくで、非常に動きやすく、日本では私自身経験のなかった経カテーテル 的大動脈弁置換術や僧房弁形成術、ASD閉鎖術などの術中評価にも立会うことができ、すべてが新しく刺激的な 毎日です。また、主にフェロー教育を目的として行われるモーニングカンファレンス・ケーススタディでは、日 々のエコーリーディングとともに、専門知識のみならず、臨床の現場に役立つ循環器一般知識・経験を得ること ができ、大変勉強になります。また、実際の現場で働く多くのフェローと交流ができるという意味においても、 とても興味深く楽しく参加させていただいております。最後になりましたが、このような素晴らしい環境で臨床 研究に従事できますことを深く感謝し、ご支援くださった貴学会およびフィリップスメディカルシステムズ社に この場を借りて厚くお礼申し上げます。(2007年12月)


田中 秀和

[帰国報告]

 私は2007年5月から2010年4月までの3年間、米国ペンシルバニア州にあるピッツバーグ大学循環器科 の心エコーラボに留学しておりました。私はJohn Gorcsan教授のもとで、2-Dおよび3-D speckle tracking法、 またtissue Doppler imaging法を用いてDyssynchrony、CRTに関連した臨床研究を行っておりました。John Gorcsan教授はこの分野では世界的に有名な先生であり、学会等でたびたび来日されているので、ご存知の方も 多いかと思います。また、彼は非常に親日家でもあり、日本食、日本文化、日本人が大好きです。特に関西地方 がお気に入りらしく、京都に関しては関西人の私よりもはるかに詳しいです。
 ピッツバーグは生活するにはとてもいい街で、2007、2009年には"全米で最も住みやすい街"に選ばれており ます。地域経済が安定しており、治安、物価など様々な面で、実際とても住みやすく感じました。2007年に始ま ったサブプライムローン問題や世界金融危機による、世界中を巻き込んだ経済危機の最中にあっても、ピッツバ ーグの経済は安定しており、求人は増加していました。また、2009年はアメリカ4大スポーツのうち、アメリカ ンフットボールのスティーラーズ、アイスホッケーのペンギンズが揃って全米チャンピオンに輝くという歴史的 な年になり、ピッツバーグの街は活気に満ち溢れていました。さらに、2009年9月にはG-20(20カ国・地域首脳 連合)も開催され、各国の首脳がピッツバーグに訪れました。このようなピッツバーグにとって歴史的な年に滞 在できた事を誇りに思っています。
 ピッツバーグ大学での臨床研究は、豊富な症例数と最新の機器がそろっており、整ったすばらしい環境である といえます。私は特に2-D speckle tracking法と後に開発された3-D speckle tracking法に興味があったので、 これらをCRT患者に応用し、CRT後の長期予後との関連などについて研究していました。研究に関しての日本との 一番の違いは症例数です。本当に多いです。日本に帰ってからは単純なストレートで真っ向勝負をしても勝負に ならないこともあるので、アイデアを駆使して世界と勝負していきたいと思いました。心エコーラボでのその他 の仕事としては、Dr. Gorcsanが関わっている複数の多施設大規模研究のデータ管理と解析がありました。
 ピッツバーグ大学では"Dyssynchrony"という分野は、臨床の場においても我々リサーチフェローの仕事となっ ており、臨床医からエコーの依頼を我々がうけていました。特にCRTの植え込み適応に悩むQRS幅が120ms前後の いわゆるBorderline QRSの患者には我々のエコー所見を参考にしていました。このようにピッツバーグ大学心エ コーラボの長所は、我々リサーチフェローが、臨床研究は勿論のこと、Doctor、Nurse、Co-medicalの人たちと コミュニケーションをとりながら、日常臨床の一つの歯車として働くことができることです。
最後になりましたが、このような留学の機会にご支援くださった心エコー図学会、およびフィリップスメディカ ルシステムズ社にこの場を借りて厚くお礼申し上げます。

[経過報告]

 私は2007年5月より、ピッツバーグ大学循環器科の心エコーラボに留学しております。ピッツバーグは今年 "全米で最も住みやすい街"に選ばれており、治安、物価など様々な面でとても住みやすく感じています。
 私はJohn Gorcsan教授のもとで、主に左室dyssynchronyに関連した臨床研究を行っており、現在留学して約3 ヵ月半が経過しましたが、仕事にも徐々になれ、充実した日々を送っております。臨床研究に関しては、豊富な 症例数と最新の機器がそろっており、整ったすばらしい環境であるといえます。心エコーラボでの仕事は、自分 の研究テーマに加えて、多施設大規模研究のデータ管理と解析、大学内で行われている他部門との共同研究など 多岐にわたります。また、"Dyssynchrony"という分野に関しては、臨床の場においても我々リサーチフェローの 仕事となっており、臨床医からエコーの依頼を我々がうけています。このようにピッツバーグ大学心エコーラボ の長所は、我々リサーチフェローが、臨床研究は勿論のこと、Doctor、Nurse、Co-medicalの人たちとコミュニ ケーションをとりながら、日常臨床の一つの歯車として働くことができることです。
 このような留学の機会にご支援くださった貴会、およびフィリップスメディカルシステムズ社にこの場を借り て厚くお礼申し上げます。(2007年8月)


藤本 浩平

[帰国報告]

 私は2006年4月から、2008年7月までの2年4ヶ月間、米国ニューヨーク州にあるコロンビア大学(循環器内 科 心臓エコー部門)にResearch Fellowとして留学させていただきました。コロンビア大学医学部はマンハッ タン島の北の端にあり、ハドソン河のほとりに位置します。ニューヨークといえば誰もがイメージするタイムズ ・スクウェアやブロードウェイといった町の中心部までは地下鉄で20-30分ほどの近さです。さすが、都会の中 の都会という感じで、さまざまな有名なレストランやブティックが立ち並んでいました。
 お金さえあれば、遊ぶことには事欠かない所でしょう。
 ニューヨークは人種のるつぼといわれ、世界中からさまざまな人々が集まって生活しています。そのため色々 な訛りが入り混じり、そのうえ早口で、店でのオーダーひとつにも苦労しました。また英語の問題に加えて習慣 も違うため、スーパーなどで店員の態度にいらいらしたり、それに対してクレームのひとつも言えない自分に腹 がたつこともしばしばありました。しかしそういった苦労もあった一方で、ニューヨークの人々の良い面、例え ば、女性や子供に対してとても親切である面などもたくさん知ることができ、それらの経験を通して、あらため て日本の良い点、悪い点を外から見つめなおすことができたのはとても良かったと思っています。
 アメリカと日本の医療の違いについてですが、臨床を見る限りでは、日本も引けをとらないのではないかと感 じました。ただ臨床試験や、薬剤の認証においては日本は世界から遅れています。安全性ももちろん大事ですが 、より良い治療をいち早く取り入れようとする姿勢もやはり大事ではないでしょうか。あと日本と比較して、教 育システムが確立しているように思います。コロンビア大学では、クリニカルフェローといった立場の医者(日 本ではスタッフの手前の立場でしょうか)が、レジデントを指導し、またそのレジデントが医学生を指導し、そ れら全てをスタッフが統括するというシステムになっています。そのシステムがとてもうまく機能しているので す。そのほか臨床面においては、良くも悪くも仕事がかなり分業されているということが挙げられます。この良 い点はそれぞれが自分の業務に集中できる環境になっているところですが、その反面分業されすぎていて、患者 さんを総合的にコーディネートする体制には少し不安が残るように感じました。連絡の不備などでどこに行った らいいのか、誰に言ったらいいのかということが分からず、患者さんが困っていることがよくあったからです。 日本では職員の誰かに尋ねたらなんとかしてくれそうなものですが、アメリカでは自分が関係しなければ、"I don't know"の一言で終わってしまいます。患者さんも諦めているのか慣れているのか、あっさりと何も言わ ず次に聞く人を求めてさまよって行きます。国民性なんでしょうね。
 さて本業の研究ですが、我々は本間俊一教授のもとで、心エコー図に関する研究を行っていました。当研究室 では従来の心エコー図を用いた臨床研究の他に、多彩な人種がいる地域性を利用した、コホート研究、または高 周波の超音波を用いた小動物の心機能評価、超音波を治療に応用したHigh intensity focused ultrasound (HIFU)による心筋焼灼術の基礎実験、さらには経カテーテル治療における心エコー図での評価まで、非常に多く の分野にわたって、研究がおこなわれています。
 私はもともと弁膜症に興味をもっていたので、弁膜症に関する研究に携わることになりました。まずは、HIFU を用いた実験ですが、将来の大動脈弁狭窄に対する超音波を用いた非侵襲治療を夢見て、ヒトの大動脈弁置換術 後の取り出した石灰化弁に対して、HIFUを用いて穴をあける試みでした。私は日本での大学院生の時も含めて、 臨床研究の経験しかなく、基礎的な実験は初めてでしたので、実験の準備や病理検査などさまざまな難関があり 苦労しました。ただ周りのスタッフがとても協力的であったため、助けられながらなんとか進めることができま した。
 もうひとつは重症大動脈弁狭窄の患者に対するカテーテル治療の臨床試験に関するもので、当施設を含めた3 施設で行われていました。これは、大腿動脈からカテーテルを挿入し、バルーンで狭窄弁を前拡張した後、生体 弁をマウントしたステントをカテーテルで同部位に挿入するといった治療です。私はこの新しい治療の心エコー 図における評価をおこないました。まだ臨床治験中である最新の治療に携わることができたことは私にとって、 とても大きな収穫だったと思います。今後の医療の方向性は間違いなく、治療の非侵襲化に向かっていくでしょ う。そういう流れに伴って、同治療もいずれ一般化されるのではないかと期待しています。
 今回の留学で私は色々なことを考えるきっかけを与えてもらいました。コロンビア大学での研究だけにとどま らず、公私共に多くのことを経験でき、本当に嬉しく思っています。こうして無事に留学生活を終えることがで きたのは、言うまでもなく、多くの人に支えてもらったお陰であり、ご支援くださった日本心エコー図学会およ び、フィリップスエレクトロニクスジャパン社には心から感謝しております。この場をお借りして厚く御礼申し 上げます。(2008年9月)

[経過報告]

 私は2006年4月より、米国ニューヨーク市にあるコロンビア大学において、本間俊一教授のもと心エコー図 に関する研究に従事しています。当研究室では、臨床研究に加えて、High intensity focused ultrasound (HIFU)と呼ばれる治療を目的とした超音波の実験や高周波プローブを用いたネズミの心エコーなど様々な研究が おこなわれています。私はその中でも、カテーテル治療に伴う心エコー図の評価に携わっており、特に弁膜症に 対する経皮的な治療における評価について研究しています。今後ますます高齢化がすすむ中、弁膜症に対する治 療法は、従来の薬剤もしくは手術といった二者択一ではなく、さらに他のオプションが求められるのは言うまで もありません。これらの新しい治療法を心エコー図を用いて適切に評価した上で、一般臨床に適応されるように なることを願い、日々努力している次第です。慣れない土地での新たな生活、苦労することも多くありますが、 すばらしい環境の中で様々な経験を積むことができ、大変うれしく思っております。このような機会にご支援く ださった日本心エコー図学会および、フィリップスエレクトロニクスジャパン社に心から感謝し、この場をお借 りして厚く御礼申し上げます。(2007年4月)


■ 平成17年度 第1回 ■

岡島 一恵

[帰国報告]

 2004年9月より2007年8月まで米国ニューヨーク州マンハッタンにあるコロンビア大学で心エコー図に関す る研究をおこなってきました。いままでも多々報告があったかと思いますが、やはり我が研究室の特徴は心エコ ー図に関係した研究が非常に多岐にわたるということだと思います。伝統的に従事している治療用超音波(High Intensity Focused Ultrasound)の臨床応用にむけての実験、高解像度心エコー図を用いた基礎実験動物の心機 能評価、経皮的治療(弁膜症、心筋症、不整脈)における術前後評価などのIntervention Teamとの臨床共同研 究、心移植における拒絶反応の予測、そして高血圧グループや脳神経グループとも共同でおこなっている疫学研 究などが代表的なものです。それぞれの分野に著名な先生方がおられ、本間俊一教授を窓口としおのおの Research Fellowが興味ある分野をほりさげて研究にたずさわっていました。テーマそのものが非常に興味深い ものばかりでしたが、さらにそれぞれの分野(基礎、臨床、疫学)における運営やSystemの違いも体験でき非常 に有意義でした。
 臨床研究に関しては現地のClinical Fellowと協力して共に研究をすすめることが多く、彼らを通じて日常臨 床現場の一部を垣間見ることができました。好ましく思われたことは医者および医療従事者間で老若男女をとわ ず皆非常によく発言をすることです。これは積極性の表れと同時に意見、質問しやすいFrankな上下左右の関係 のためと思われます。逆に日本の臨床になれていると少し違和感をおぼえたのは、医療の分業化が進んでいるこ とです。非常にProfessionalに客観的な判断ができるのがよい反面、連携プレー性では少しおとるように感じら れました。時間、分野間の分業のみならず、診断、治療、経過観察など過程の分業も日本以上に独立しているた め、たとえば治療当日に入院してくる患者さんが外来でうけた治療内容の説明との違いに戸惑われている現場も たびたび見かけました。
 その他当研究室の特徴として本間教授のもと日米の交流に非常に熱心であったことがあげられるかとおもいま す。海外学会のおり立ち寄っていただいた日本の先生方との交流をはじめ、日本より定期的に受け入れていた医 学生の方々も皆こちらの臨床研修医・医学生に混じり充実した時をすごされていたようです。日本とアメリカの 架け橋にという教授の思いが反映されているかと思います。
 さて生活面では上述した学友のみならずいろいろな分野で交友を広げることができました。東海岸の人々はあ まりFriendlyでないといわれがちです。しかしむしろ非常にさまざまなBackgroundの人々が集まってきているた めか、Native Speakerでない私にも比較的寛容であり、皆と親しくなりやすかったように思います。さらに皆基 本的にOffの楽しみ方が非常に上手でPrivateの時間で交友を広げることも多く、職場のみならず趣味などを通じ て分野の違う友達ができたのも財産のひとつとなっています。
 またNYは物価、家賃がかなり高く留学生には大変かと思われているようです。しかし名だたる楽団、歌手によ る舞台、また野外映画などが無料で公開されるEventが数え切れないほどあり、みなこのようなEventをうまく利 用して生活をEnjoyしているように思います。かつ観劇や習い事自体の単価も安く、総合的にみると工夫次第で 高い物価を上回るお得で充実した留学生活を送れるように思います。
 甘すぎるお菓子にすっかり慣れてしまい、私の口には大きすぎるアメリカサイズの歯ブラシで歯をみがき続け 、かつ高額である歯科治療を敬遠し、留学中に計5個も虫歯ができていたことが帰国後判明しました。笑い話の ようですが以上大味でおおらか、Bigなお国柄と、しかし万人向きとはいえない保険制度Systemなどアメリカの 特徴の一部を物語っているかと思います。学び体験した日米、さらにはNYを通じてみたその他の国々の文化や Systemの違いを、今後に役立てていければと思っています。最後になりましたがこのような機会にご支援いただ いた貴学会に対し改めて厚く御礼申し上げます。(2007年11月)

[経過報告]

 私は2004年9月より、米国ニューヨーク州のマンハッタンにあるコロンビア大学Presbyterian Medical Centerで、本間俊一教授のもと心臓超音波に関する研究を行っています。伝統的に従事している超音波を治療に 応用したHigh intensity focused ultrasound (HIFU) による心筋焼灼術の動物実験をはじめとし、コラボレー トしているラボの様々な動物の心機能評価、さらには経カテーテル治療にからんだ臨床症例の評価まで、非常に 多彩な分野で心エコー図法に関する研究に携わっています。小さなものでは超高周波 (30MHz~) Probeによるね ずみの弁の評価から、果ては日本では経験しえないりっぱな体格をされた方の3Dエコーまで幅は広く、心エコー 図法の基礎にたちかえり考えさせられることも多く、非常によい経験をさせてもらっています。臨床においては 、お国柄上患者層も様々なため、時に母国語以外全く話せない患者に遭遇し苦労することもありますが、しかし 負けず劣らずエコーラボ内のCo-workerたちの層も厚く、いつもなにがしか通訳を見つけることができ、文化の 違いを感じるとともに周りのサポートに深く感謝している次第です。生活面では現在のNYは十~数年前に比べて も非常に治安が改善しており、格別こわい思いをすることもなく、衣食住にともに堪能できる街で楽しく研究生 活を続けています。最後になりましたが、貴学会からの助成をうけ、このような環境で研究に従事できることを 心から感謝し、この場を借りて厚く御礼を申し上げます。(平成17年10月)


■ 平成17年 第2回 ■

阿部 幸雄

[帰国報告]

 私は米国コロンビア大学のInternal Medicine Cardiology Divisionに、2004年4月から2006年3月まで2 年間留学させていただきました。高校時代から米国でがんばってこられた本間教授が率いる心エコー図研究室で 、心エコー図に関わる種々の研究に参加させていただきました。研究のテーマは大きく分けて3つありました。 high intensity focused ultrasound(HIFU;ハイフー)と呼ばれる治療用超音波に関する基礎実験、マンハッ タン北部地域における心・脳血管疾患について各種エコー図を絡めた疫学的研究、負荷心エコー図や3D心エコー 図を用いた臨床研究、の3つです。これらの中から、与えられるのではなく自主的にテーマを選んでいく、もし くは創りだしていくことができるという点が当研究室の長所です。逆に言えば、自分で動かなければ何も始まり ませんので立案と実行にはかなりの労力を要します。しかし、そのおかげで、学術的なことのみならず日米の考 え方や仕事の進め方の違い等、非常に多くのことを学ぶことができました。
 さて上記3つのテーマのうちでは、HIFUに関する実験に最も多くの時間と労力を費やしました。高出力超音波 を組織内の小さな1点(焦点)に集中させて照射することで、焦点付近の組織に高温が生じます。このことを利 用すると焼灼術を行うことができます。トランスデューサーから焦点までの間にはほとんど障害を及ぼさないと いうのがHIFUの利点です。よって、表面に障害を与えない深部を目標とした焼灼術、例えば、体表から心筋を目 標とした焼灼術が可能になるわけです。閉塞性肥大型心筋症に対する心室中隔焼灼術や不整脈に対する焼灼術等 を、体表から非観血的に行うことを最終目標として、基礎実験を行っていました。Riverside Research  Instituteという超音波機開発に関するベンチャー企業がNational Institutes of Health(NIH)からグラント を獲得してトランスデューサーや各種ソフトを製作し、実験をわれわれの研究室に依頼して共同研究を進める、 そしてグラントの一部が当研究室に入るというシステムでした。米国ならではといったシステムであり、そうい う意味でも非常に興味深いものでした。まずは体表からではなく、心臓外から心筋内部の焼灼術が行えるかどう かについて、開胸犬を用いて実験しました。治療用トランスデューサーに診断用トランスデューサーを付属させ 、2Dエコー図でモニターしながら心筋の任意の深さに治療用超音波の焦点を設定します。そして、心電図同期を しながら間歇的に治療用超音波の照射を行いました。数心拍に1回、0.2秒の照射を行うと、たった計5回で焦点 の小さな領域に心筋壊死をつくることができました。さらに回数依存性に壊死領域は大きくなりました。焼灼を 行う位置と大きさを調節することができることが証明されました。結果については、American Society of  Echocardiographyの年次集会で発表し、現在論文も作成中です。今後は、実際に治療に適用できるかどうか、体 表からの治療が可能かどうか、という点について更なる研究が必要であると考えています。
 また、Northern Manhattan Study(NOMAS;ノーマス)と呼ばれるコホート研究プロジェクトにも参加させ ていただきました。マンハッタン北部地域における心・脳血管疾患についての疫学的研究であり、ほとんど白人 で構成されるFramingham Studyに対し、白人に加えてヒスパニック系と黒人が大きな比率を占める人種構成が 当コホートの特徴です。近年、Framingham Risk Scoreを用いた冠疾患リスク層別が不完全なものであり、リ スクを過少評価する場合が多いと指摘されています。また、Framingham Risk Scoreは必ずしも異なる人種に 適用できないことも指摘されています。そこで、心エコー図による左室肥大評価と頚動脈エコー図によるプラー ク評価がそれらの弱点を補完できる可能性を示唆する論文を、NOMASのデータを使って作成しました。幸運なこ とに、既にAmerican Journal of Cardiologyへの掲載が決定しております。
 残念ながら、進行が最も遅くなってしまったのが臨床研究でした。病院の倫理委員会に承認を受けるために論 文並みのプロトコルの提出が必要とされ、提出後には委員会に論文並みのリバイスを行われました。半年以上か けて承認を受けた後には、現地の患者さんを募集しなければなりません。結局、ある臨床研究を計画したものの 、種々の障害で症例数を集めることができませんでした。しかし、それらの苦労のいずれもが本当に良い経験と なりました。
 さて、本間教授は日本との学術交流を心から歓迎しておられ、日本心エコー図学会にとっても今後一層大切な 存在になられると考えます。私も留学の経験を生かして、日米交流を深める役割を少しでも担える存在となれる ように今後も精進したいと考えております。最後に、このような素晴らしい機会を与えていただいた方々、本間 教授をはじめ留学中にお世話になった方々、そして、留学助成金をいただきましたフィリップスエレクトロニク ジャパンおよび日本心エコー図学会に心から感謝いたします。本当にありがとうございました。(2006年8月)

[経過報告]

 私は2004年4月より,米国ニューヨーク市にあるコロンビア大学の心エコー図研究室に留学させてい ただいております.本間俊一教授のもとで,心エコーに関するさまざまな研究に従事してまいりました.High Intensity Focused Ultrasound (HIFU:ハイフー)と呼ばれる治療用超音波の心臓病への適用に関する基礎実験 ,Northern Manhattan Study (NOMAS:ノーマス)と呼ばれる各種超音波検査を絡めたコホート研究,そして3D 心エコー図を用いた臨床研究,などです.バラエティに富んでいるように思われるかもしれませんが,一貫して いるのは心エコーの適応を広げたいという熱い思いに他なりません.さて,当ラボの長所は自主性を重視する点 です.自分から積極的に研究の立案・実行をしていくことが求められます.またニューヨークという土地柄もあ ってか,多種多様な人々と協力して仕事を進めていくことが必要となります.その過程の中で学ぶことは,他で は得がたい貴重な経験となっております.日本に帰国した後は,留学中に学んだことをより多くの人に伝えるこ とができるように頑張るつもりです.最後になりましたが,このような機会にご支援くださった日本心エコー図 学会およびフィリップスメディカルシステムズ社にこの場を借りて厚くお礼申し上げます。(2005年12月 )


和田 希美

[帰国報告]

 私は2006年3月より米国オハイオ州のクリーブランドクリニックの心血管Imaging部門に留学させてい ただきました。クリーブランド市は五大湖の一つであるエリー湖南岸に面しており、シカゴとニューヨークのほ ぼ中心に位置します。北海道とほぼ同緯度にあり、夏の平均気温は28度で湿度も低いため比較的すごしやすいの ですが、冬の寒さは非常に厳しく、真冬には最高気温が氷点下になることもしばしばあり、最低気温はマイナス 20度に達することもありました。街の基幹産業であった鉄鋼業は衰退し、かつての賑わいは失われダウンタウン 周辺は決して治安がよいとは言えませんが、近年、化学工業やバイオ関連産業の中心として、また医療産業の街 として再活性が進んでおり、クリーブランドクリニックもその一助を担っています。病院の周辺には世界的に有 名なクリーブランドオーケストラやクリーブランド美術館、植物園、ケース・ウェスタン・リザーブ大学などの 文化施設が集まっており、少し郊外に車を走らせるとForest Cityの名にふさわしく緑あふれる邸宅街や公園地 帯、ゴルフ場などが広がっており豊かな自然に恵まれた環境であります。
 皆様もご存知の通り、クリーブランドクリニックは米国でも最も大規模なハートセンターで、世界中から多く の患者が訪れており外来患者数は年間約22万人で、心エコー件数は年間約5万件、心臓カテーテル検査も年間約1 万件に達します。開胸手術においては年間3500例に施行されており、なかでも僧帽弁形成術をはじめとした 心臓弁膜症手術では全米でも圧倒的な症例数をほこっています。
 このようなすばらしい施設で私はDr. James D Thomas、塩田隆弘先生のご指導のもとリアルタイム三次元心エ コー図を使った閉塞性肥大型心筋症の僧帽弁機構の解明について研究させていただく機会をいただき、今春の American College of Cardiology 55th Annual Scientific Sessionで発表させていただきました。また術中経 食道心エコー図を用いた僧帽弁形成術後のSystolic anterior motion(SAM)発生の予測因子について研究し、 2007年American Society of Echocardiography 18th Annual Scientific Sessionで発表する機会をいただきま した。
 私達Research Fellowは臨床研究だけでなく、毎日正午から約1時間にわたって行われる循環器カンファレンス に参加することができ、レジデント向けの基本的な話から最新の治療法、症例検討や、他施設の御高名な先生方 の講演まで多岐にわたったレクチャーを受けることができました。また、毎週水曜日にはImaging部門の早朝カ ンファレンスが行われ、Clinical Fellowが行っている研究発表、それに関連した抄読会や麻酔科との合同の術 中経食道心エコーカンファレンスにも参加することができ、現場のディスカッションも垣間見ることができまし た。
 特にこのクリーブランドクリニックでの留学から感じたことはより良い臨床研究、またその結果から患者様に 還元していく上で、心エコー専門医と外科医あるいはCo Medicalの人たちと常に密接な協力関係にあり、お互い に信頼を得てこそ、次の診療、患者様の満足につながるものだと確信しました。今回の留学では日本では経験す ることのできない膨大なデータの解析で苦労することも多くありましたが、世界各国のFellow達と交わりながら 研究することができ私にとって大変貴重な体験となりました。最後になりましたが、貴学会からの助成をいただ きこのような素晴らしい施設、指導者のもとで研究をさせていただき心から感謝申し上げます。また御支援くだ さったフィリップスメディカルシステムズ社にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。(2007年7月)

[経過報告]

 私は2006年3月より、米国オハイオ州にあるクリーブランドクリニック、心血管画像部門に留学させていた だいております。Dr. James D Thomas, Dr.Takahiro Shiotaのもと、主に三次元心エコー図を用いた僧帽弁三次 元構造の形態変化に関する研究に従事させていただいております。ご存知のとおり、クリーブランドクリニック のHeart Centerは全米で最優良機関として認められており世界各国から年間約22万人の患者が訪れています。日 本の施設と比較し手術症例数は群を抜いており、特に弁膜症手術に関しては全米でも最大規模で2005年度は約 2200例もの患者に施行されております。同時に心エコー図検査数も非常に多く約50000件に行われています。今 回日本心エコー図学会から助成を受け、このようなすばらしい環境の中で研究に従事できることを心から感謝し 、この場をお借して厚く御礼申し上げます。(2006年9月)


■ 平成16年度 第1回 ■

落合 出

[帰国報告]

 私は2003年12月より2005年3月まで米国ミネソタ州ロチェスターに位置するメイヨークリニックの循環器科 心エコーラボに留学し多くのことを学べたこと心から感謝しております。
 ミネアポリスから約100kmに位置するロチェスターという町は、日本でいえば江戸時代の城下町のような感じ です。メイヨークリニックという病院を中心としてアメリカをはじめ世界から集まる患者さんのためのホテルや 付帯施設が隣接しております。私のようなフェローもさまざまな国から多く訪れ各分野での研究をしております 。私はBijoy Khandheria先生の指導のもと3Dエコー法の臨床応用とanatomical M-mode法による心臓の収縮様式 評価の解析をさせていただき、ASEでの発表と論文をどうにか形にすることができました。これも多くのスタッ フの協力と指導があってのものです。
 メイヨ―クリニックでは臨床および研究が盛んに行なわれておりとても刺激的な毎日を過ごすことができまし た。教育プログラムもまた非常にしっかりしておりエコーラボだけでも毎日朝夕を問わずカンファレンスが行わ れています。世界中から著名な教授を呼んでの講演や循環器関連のメイヨークリニック主催の研究会なども多く われわれフェローは自由に参加することが許可されており、毎日が楽しく勉強のできる日々でした。
 最後に、日本心エコー図学会からの海外留学助成によりこのようなすばらしい機会を得て研究できることを心 から感謝しております。またサポートしてくれたすべての方々に厚く御礼申し上げます。

[経過報告]

 私は2003年12月より、米国ミネソタ州ロチェスターに位置するメイヨークリニックの循環器科心エコーラ ボに留学しております。ミネアポリスから約100kmに位置するロチェスターという町は、日本でいえば江戸時代 の城下町fのような感じです。メイヨークリニックという病院を中心としてアメリカをはじめ世界から集まる患 者さんのためのホテルや付帯施設が隣接しております。私のようなフェローもさまざまな国から多く訪れ各分野 での研究をしております。私はBijoy Khandheria先生の指導のもと3Dエコー法の臨床応用とanatomicalM-mode 法による心臓の収縮様式評価の解析を行っています。メイヨ―クリニックでは臨床および研究が盛んに行なわれ ておりとても刺激的な毎日を過ごしておりますが、教育プログラムもまた非常にしっかりしておりエコーラボだ けでも毎日朝夕を問わずカンファレンスが行われています。循環器関連のメイヨークリニック主催の研究会など も多くわれわれフェローは無料で参加し勉強することが許可されております。日本心エコー図学会からの海外留 学助成によりこのようなすばらしい機会を得て研究できることを心から感謝し厚く御礼申し上げます。(平成17 年4月)


小泉 智三

[帰国報告]

 私は、2003年6月より、2006年11月まで、スタンフォード大学の心血管インターベンション研 究センターに、貴学会助成金の援助を受けて留学しておりました。当センターでの研究内容を帰国報告といたし ます。

研究テーマ
 冠動脈ステント内再狭窄の治療において、冠動脈内放射線療法とパクリタクセル溶出ステントによる治療効果 の違いを、血管内超音波法を用いて比較検討する。

背景
 冠動脈内放射線療法は、ステント内再狭窄病変に対する治療として、現在、唯一認可されている治療法である 。同病変に対する治療において、パクリタクセル溶出ステントは、冠動脈内放射線療法と比較して、治療9ヵ月 後の臨床および血管造影上の再狭窄が減った、とTAXUS V (ISR) トライアルは示している。しかし、ステン ト内再狭窄病変にパクリタクセル溶出ステントを植え込むことによる血管の反応は、充分に調べられていない。

目的
 血管内超音波法(IVUS)を用いて、ステント内再狭窄病変の治療において、パクリタクセル溶出ステント植え 込みと冠動脈内放射線療法の、9ヵ月後の血管反応の違いを検討する。

方法
 TAXUS V (ISR) トライアルの血管内超音波のデータを使った。
 TAXUS V (ISR) トライアルとは、全米の前向き、多施設、無作為試験で、過去の冠動脈ステント(薬物の載っ ていない金属ステント)の再狭窄病変患者を、1:1で冠動脈内放射線療法とパクリタクセル溶出ステント植え 込みに分けて、9ヵ月後の主な心事故と、血管造影上の血管径遅延損失を比較する試験である。そのうち、IVUS を治療直後と9ヵ月後に行った病変のデータを使った。

 TAXUS V(ISR)トライアルでは、396人のステント内再狭窄患者が無作為に振り分けられ、342人(86 .4%)が9ヵ月後の血管造影を施行した。そのうちIVUSを行ったのが162人で、冠動脈内放射線療法が80 人、パクリタクセル溶出ステントが82人であった。

IVUSの計測方法
 IVUSのCross-Sectional 画像で、ステント、血管内腔をマニュアルでトレースし、(新生)内膜面積をステン ト面積から血管内腔面積を引いてもとめた。そして、Simpson法を用いそれぞれのCross-Sectional 画像を積分 して計算し、これら血管のパラメーターの容積を求めた。患者それぞれのステント長の違いを調整するために、 容積値をステント長で割って、容積データを容積インデックスとして示した。

結果
 治療直後のステント内のIVUSデータ
 ステント内の最小内腔面積は有意にパクリタクセル溶出ステントの方が血管内放射線治療群よりも大きかった (血管内放射線治療4.2 ± 1.5 mm2 vs. パクリタクセル溶出ステント5.3 ± 1.5 mm2, p<0.01)。血管内腔容 積インデックスも同様にパクリタクセル溶出ステントの方が血管内放射線治療群よりも大きかった(血管内放射 線治療5.4 ± 1.8 mm3 /mm vs. パクリタクセル溶出ステント6.5 ± 1.8 mm3 /mm, p<0.01)。

9ヵ月後のステント内のIVUSデータ
 ステント内の最小内腔面積および血管内腔容積インデックスは、パクリタクセル溶出ステントと血管内放射線 治療群で差がなかった(血管内放射線治療3.7 ± 1.7 mm2 vs. パクリタクセル溶出ステント4.1 ± 1.7 mm2, p=0.35、血管内放射線治療5.4 ± 1.8 mm3 /mm vs. パクリタクセル溶出ステント5.6 ± 1.8 mm3 /mm, p=0.63 )。ステント内の内膜の容積インデックス変化(9ヵ月後の内膜容積から治療直後のそれを差し引いた値)は、 パクリタクセル溶出ステントの方が血管内放射線治療群よりも大きい傾向にあった(血管内放射線治療0.3 ± 1.1 mm3 /mm vs. パクリタクセル溶出ステント0.7 ± 0.7 mm3 /mm, p=0.06)。

治療直後から9ヵ月後にかけてのステント内のIVUSデータ
 治療直後および9ヵ月後、両時期のIVUSが計測可能であった例(血管内放射線治療群N=30、パクリタクセル 溶出ステントN=34)で検討した。
 治療直後は、血管内腔容積インデックスは、パクリタクセル溶出ステントの方が血管内放射線治療群よりも有 意に大きかった(血管内放射線治療5.6 ± 1.7 mm3 /mm vs. パクリタクセル溶出ステント6.5 ± 1.7 mm3 /mm, p<0.01)。パクリタクセル溶出ステントの血管内腔容積インデックスは治療直後から9ヵ月後にかけて有意に 減少したが(治療直後6.5 ± 1.7 mm3 /mm vs. 9ヵ月後5.4 ± 1.8 mm3 /mm, p<0.01)、その時点(9ヶ月後 )において、パクリタクセル溶出ステントと血管内放射線治療群に差はなかった(血管内放射線治療5.4 ± 1.7 mm3 /mm vs. パクリタクセル溶出ステント5.4 ± 1.8 mm3 /mm, NS)。

ステントのリフェレンス(ステントの両外側5mm)の解析
 治療直後は近位部および遠位部とも、血管内腔容積インデックスに両群で有意差はなかった(ステント近位部 :血管内放射線治療6.6 ± 2.4 mm3 /mm vs. パクリタクセル溶出ステント6.1 ± 2.2 mm3 /mm, p=0.20、 ス テント遠位部:血管内放射線治療6.1 ± 2.7mm3 /mm vs. パクリタクセル溶出ステント6.0 ± 2.2 mm3 /mm, p=0.92)。9ヵ月後は、パクリタクセル溶出ステントの近位部のリフェレンス血管内腔容積インデックスは、血 管内放射線治療群よりも大きい傾向にあった(ステント近位部:血管内放射線治療5.8± 1.6 mm3 /mm vs. パク リタクセル溶出ステント6.6 ± 2.2 mm3 /mm, p=0.08)。遠位部のリフェレンス血管内腔容積は、両群で有意差 はなかった(ステント遠位部:血管内放射線治療5.1 ± 2.0mm3 /mm vs. パクリタクセル溶出ステント5.8± 2.1 mm3 /mm, p=0.11)。

まとめ
 ・治療直後では、血管内放射線治療群と比較しパクリタクセル溶出ステントのステント内血管内腔容積インデ ックスは大きかった。
 ・パクリタクセル溶出ステントの方がステント内の内膜の増加が大きい傾向にあったが、その変化量は両群と も少ない量であった。
 ・9ヵ月後、ステント内血管内腔容積インデックスは両群に差はなかった。
 ・9ヵ月後、近位部のリフェレンス血管内腔容積インデックスは、血管内放射線治療群と比較しパクリタクセ ル溶出ステントの方が大きい傾向にあった。

この研究の限界
 ・この研究は、比較的対象数の少ない、IVUSが可能であった選ばれた患者に基づいているため、サンプル選択 による偏りの可能性がある。
 ・この研究は9ヵ月後のIVUSのデータであり、さらに長期に渡る経過観察が、このステント内再狭窄病変の治 療法の永続性について判断する際に、必要である。

結語
 このIVUS研究では、ステント内の内膜の増加は、血管内放射線治療群とパクリタクセル溶出ステントの両群で 微量であり、その結果、治療後9ヶ月において、この2つの治療法での血管内腔径は同等であった。

 このデータは、2006年のAmerican Heart Association Scientific Session で口演した。(2007年1月)

[経過報告]

 私は2003年6月よりスタンフォード大学に留学しております。
 スタンフォード大学は、米国カリフォルニア州サンフランシスコ市から南へ30マイルのところにある私立の 総合大学です。広大なキャンパス内に点在するロマネスク様式の美しい建物、乾いた空気と緑の木々に囲まれた 最高の環境で、世界的な研究業績をあげています。
 私が所属させて頂いているCardiovascular Medicine では、心臓移植の第一人者である(1968年全米で初 めてヒト心臓移植を行った) Norman Shumway先生や、大動脈解離のスタンフォード分類が有名です。私は、 Peter J. Fitzgerald 先生がDirectorであるCenter for Research in Cardiovascular Interventionで研究をし ております。ここの研究室は、全米およびヨーロッパ、ブラジル等、世界各国より、大規模臨床試験の血管内超 音波(IVUS)のデータが集められており、Core Analysis Laboratoryとして機能しています。私は現在、TAXUS Vという、パクリタクセル溶出ステントに関する全米の前向き多施設無作為臨床試験のIVUSの解析を担当してお ります。TAXUS Vとは、ステント内再狭窄病変に対するパクリタクセル(卵巣腫瘍などに使用する抗腫瘍薬)溶 出ステントの効果を、従来の血管内放射線治療(日本では行われていない)と比較する試験です。その他にも、 日本でも昨年より認可のおりたシロリムス溶出ステント等、いろいろな種類の薬物溶出ステントのトライアルの 評価がここの研究室で行われております。定期的にCore Laboratory Meetingが開かれ、Fitzgerald 先生を中心 に薬物の冠動脈病変に対する効果の比較検討をIVUSの視点から行っております。
 貴学会より助成を頂く事により、このようなすばらしい環境で研究が出来る事を心より御礼申し上げます。( 平成17年3月)


藤倉 加奈

[帰国報告]

 私は、コロンビア大学医学部付属病院(米国・ニューヨーク州)の循環器内科心臓超音波ラボの本間俊一 教授のもとに2003年4月より留学させていただきました。2005年9月より同大学Biomedical Engineeringの超音波 のラボ(同大学付属病院の研究棟に研究室があります)に移籍し、超音波の研究を続けさせていただいておりま す。
 病院はワシントンハイツという、セントラルパークよりもさらに北側のプエルトリカンが多く住んでいる地域 で、彼らの母国語はスペイン語です。病院の患者さんも9割近くはスペイン語しか話せないので、臨床研究でも スペイン語の患者さんをスキャンすることがほとんどですが、スペイン語が話せない私でもジェスチャーなどで 一生懸命協力して下さることに、とても感激しています。
 私は、主にHigh Intensity Focused Ultrasound(HIFU)による心筋焼灼および血栓溶解の実験に携わらせてい ただきました。HIFUとは、高いintensityを組織内の一点に収束させることで、組織内あるいは将来的に体内の ある場所をアブレーションして非侵襲的に治療するというものです。HIFUの治療効果は、温度効果とキャビテー ション効果のそれぞれの強さと割合によって変化し、これらは超音波の波長と超音波の諸照射パラメータによっ て異なります。照射条件によってアブレーション効果が変化するだけでなく、全く別の用途である血栓溶解にも 使える可能性があります。この研究は本間教授がマンハッタンにあるベンチャー企業Riverside Research Institute(RRI)と共同で行っていたものです。これらの実験では工学系の知識が必要であり、Riverside Research Institute(RRI)のHIFUプロジェクトのprincipal investigatorであった故Frederic L. Lizzi先生には 本当にいろいろとお世話になりました。将来HIFU治療を心臓アブレーション治療に応用することを念頭におき、 拍動心の心周期に同期させて一定箇所を焼灼する最適な方法に関する研究をウシの摘出心を使ってのin vitro実 験、次いでイヌを使ってのin vivo実験を行いました。コンピュータで制御してHIFU短時間照射を繰り返し行い ましたが、そのコンピュータ部門を担当していただいたRRIのJeff A. Ketterling先生にも随分とお世話になり ました。また、RRIではHIFUのリージョン作成をコンピュータシュミレーションしており、私たちの実際のデー タと比べてシュミレーションモデルにいろいろと修正を加えており、このような共同研究をさせていただく貴重 な機会をいただきましたのも、全て本間教授の尽力の賜で、とても感謝しております。残念ながらFrederic L. Lizzi先生は2004年9月に京都で行われた国際超音波治療学会に一緒に参加させていただいたのを最後に体調を崩 され、2005年1月8日に永眠されました。ここに改めてご冥福をお祈り致します。RRIのprincipal investigator としてErnest J. Feleppa先生が新しく就任され、私の拙い英語の論文を一語一句直していただき、超音波を主 題にした英語教室のようで、非常に貴重な勉強をさせていただきました。Feleppa先生をはじめ、RRIの先生方に は今でもいろいろとお世話になっています。
 また、本間教授が研究室にVisualSonics社のVevo770という小動物の超音波専用の機械を購入してくださり、 ネズミのエコーをさせていただくようになりました。コロンビア大学のBiomedical EngineeringのElisa E. Konofagou助教授のラボがこの機械を使ってネズミをスキャンしてRF dataを取り出し、elasticity imagingをコ ンピュータで解析しています。このコラボが縁でこちらのラボに現在在籍しております。
 米国、とくにマンハッタンという人種のるつぼに住むようになって、世界の国々の方と接する機会を多く得ま した。コロンビア大学に在籍する人も、日本、中国、台湾、ロシア、ドイツ、イギリス、イタリア、フランス、 オランダ、ギリシア、アルゼンチン、インド、イラン、タイ、ガーナ、ユーゴスラビア、インドネシア、オース トラリア、トルコなど数え切れないほどです。彼らと一緒に研究をしたり、話しをする機会も多く、さまざまな 国民性や価値観に触れることができ、世界に対する視野が開けました。米国の教育問題は深刻で、例えばアフリ カ系アメリカ人の子供が悪い点数を取って落第すると人種差別だといって学校が抗議されるということには、カ ルチャーショックを受けました。
 2年5ヵ月の間、公私共に得るものが大きく、本当にいろいろなことを勉強させていただきました。留学を続け ることを可能にして下さいました日本心エコー図学会およびフィリップ社様にこの場を借りて厚く御礼を申し上 げます。また、私が留学したばかりの頃、大阪市立大学から平田久美子先生、大塚亮先生が同じ研究室に留学し ており、書類の手続きや動物実験をするにあたって学内の倫理委員会で決められた所定の講習やテストなど、何 をどのようにしてよいのか分からない中、親切にアドバイスを下さり、そして生活面でもいろいろとサポートを いただき、どうもありがとうございました。この経験を生かし、心臓超音波のこれから更なる発展に貢献できる よう、今後も引き続き努力していきたいと思います。(2006年9月)

[経過報告]

 私は2003年4月末より、米国ニューヨーク州のマンハッタンにあるコロンビア大学Presbyterian Medical Centerで、本間俊一教授のもとで心臓超音波治療に関する研究に従事させていただいております。この研究は超 音波研究を盛んに行っているマンハッタンにあるベンチャー企業Riverside Research Instituteと共同で行って います。High intensity focused ultrasound (HIFU) はintensityが高い超音波を組織内のある場所に収束させ るにより、組織内のある範囲を部分的に焼灼することができます。この技術は眼科や泌尿器科において腫瘍の治 療の臨床応用をすでに行われています。循環器の分野でも心臓カテーテル治療で、肥大型心筋症に対するアルコ ールアブレーションや外科的治療、AVRTに対して高周波カテーテルによるKent束のアブレーション、また収縮性 心膜炎の治療法として外科的な心外膜剥離術が行われています。このような治療に対して将来的に非侵襲的に行 うことができる可能性を追求するのが、本研究の目的です。マンハッタンは文化、芸術、スポーツなど全てが揃 っているというだけでなく、いろいろな人種の人間が密集して住んでいますので、身近に何でも揃うという便利 さがあります。病院はワシントンハイツというプエルトリカンが多く住んでいる地域にあり、材料に使っている 牛の心臓も普通のグローサリーストアーで買うことができます。最後になりましたが、貴学会からの助成をいた だくことによりこのような素晴らしい環境で研究を続けさせていただくことができ、深く感謝申し上げます。こ の場をお借りして厚く御礼申し上げます。(平成16年7月)


宮崎 知奈美

[帰国報告]

 2003年から2008年まで5年にわたり、Mayo ClinicのEchocardiography labにてDr. Ohのもと臨床研究に従 事させていただきました。5年もいた割にはお世辞にも効率よく成果を挙げて帰ったと申し上げることはできま せんが、論文の数では表せない貴重な勉強をさせていただいたと思っております。
 5年前、右も左もわからなかった私に、メンターであるDr. Ohから与えられたテーマはCardiac resynchronization therapy (CRT)でした。何だか分からないけれど日本でやっていたようにデータ取りを始め ればいいだろう、と気軽に考えていた私は非常に甘かったと悟ることになります。
 まず日本では思い立ったら翌日からでも開始できる臨床研究が、アメリカではお金も時間労力もかかるという ことを思い知らされました。日本では日常臨床検査として施行した検査でリサーチを成立させることも可能です が、アメリカでは国民皆保険制度がないために臨床検査として患者負担で行える検査の種類や頻度が非常に限ら れており、研究のための検査は臨床検査とは独立して研究費を使用して行う必要があります。また遠方から患者 が来るのでフォローアップに来られる方が非常に少なく、研究目的でフォローをするのであれば交通費やホテル 代の負担をしなければなりません。また組織が巨大であるため循環器と言っても心エコーラボ、心不全クリニッ ク、EPラボ、カテラボ、HCMクリニック、ストレスエコーラボなど種々のチームに分かれており、患者のリ クルートひとつをとっても様々な人との調整が必要となり、authorshipの問題も複雑になります。あまりのフッ トワークの悪さに、日本でなら簡単なことがどうして、と何度思ったか知れません。
 反面、研究に関してそれぞれの分野の専門家が存在し、研究に予算がついて彼らにお金を払うことさえできれ ば非常に効率よく研究が行えるシステムが存在します。予算さえあれば、研究専門のコーディネイターが患者を リクルートし、フォローアップの検査や日程を調整し、予後調査もやってくれます。さらに研究専門のソノグラ ファーが必要なエコー画像を撮って計測し、統計の専門化がデータベースを整理して統計解析を行います。医者 は解析の結果を使って論文を書くだけ、といったことも可能なのです。
 このようなシステムの違いの中でとまどいながらの出発でしたが、当時組織ドプラを用いればCRTの効果が ほぼ完璧な正診率で予測できるという論文がすでにいくつか出ており、やりつくされた感がありました、ところ がまずは正常の人のデータを集めて、すでに発表されている手法でdyssynchronyを測定してみたところ、発表さ れていたデータにはならないことがわかりました。さらにCRTの前後で組織ドプラやストレインを使って dyssynchronyを測り、どの指標の変動がCRTの効果と関連しているのかを調べる研究を行ったところ、組織ド プラで測った指標はCRTで改善しないばかりか、CRTの効果も予測しないことが分かりました。少なくとも それまで発表されていたようなやり方では組織ドプラをCRT患者の予後予測に使えないということを示すこと ができました。既存の論文の結果と違うためすでに論文を発表されていた先生方からお叱りも受けましたが、幸 運にも論文の形にすることができました。すでにわかっていると思われることでも、自分の手と目で確かめるこ とは重要であると学びました。
 そのうちに研究のみならず、ソノグラファーたちにエコーの新しいソフトウェアの使い方や測定の仕方などを 教え広める役割に借り出されるようになりました。Dr. Ohはエコーの新技術を研究のみならず、気軽に臨床の現 場で応用したいと渇望されていましたが、常勤医たちは自分で新しいものに手を出す余裕があまりなく、ソノグ ラファーたちは保守的で臨床の検査以外の時間を取られることを好みません。その隙間を埋めるのに使い勝手が 良かったのが私だったでしょう。Mayo主催の教育的な研究会やワークショップで教える機会もいただき、アメリ カ人にうけるジョークスライドを必死に考えたりもしました。またフェローやレジデントを教えるカンファレン スでメイヨーの常勤医の教え上手な姿に触れることができました。これらのことから、人を教えたり知識を共有 することの大事さと、わかりやすく教えるために工夫することの大事さを学びました。
 Mayo ClinicのエンブレムはThree shieldsと呼ばれ、それぞれPractice, Education and Research を表す3 つの盾がデザインされています。その3つのすべてはまず患者のためにあるというのがMayo Clinicの基本理念 です。これが建前で終わることなく、職員側も満足しながら無理なく合理的に実践できるシステムがMayoでは構 築されていました。それも元をたどれば2人のMayo兄弟とその父親から始まり、次第に多くの人を巻き込みなが ら成長したものです。Three shieldsの理念を忘れず、アメリカにはない日本ならではの良さも生かしつつ、今 後自分のいる場所をほんのわずかでもこのような場所に近づけることができたらという思いを胸に帰国の途に着 きました。
 最後になりましたが、留学の機会を与えてくださいました吉川純一元教授、葭山教授、メイヨーでのメンター であったDr. Jae K. Oh, さらにご支援下さいましたフィリップスメディカルシステムズと日本心エコー図学会 に厚く御礼申し上げます。(2008年12月)

[経過報告]

 この度は貴学会からの貴重な研究助成をいただきまして心より感謝申し上げます。
 私は2003年10月よりメイヨークリニックのEchocardiography labにて、Dr. Ohの指導で臨床研究に従事してい ます。当研究室では豊富な臨床例のもと、各国からやって来たリサーチフェローが切磋琢磨しつつ研究を行って います。徹底した分業体制、大規模な臨床研究を行っていくためのシステム作りなど、ここにはエコーの知識だ けではなく学ぶべきことが多くあります。
 私のテーマは組織ドプラを用いた左室Dyssynchronyの解析で、主にcardiac resynchronization therapy(CRT )前後の評価を行っています。臨床研究のすすめ方や患者のリクルートなどにおいて、大きい組織であるがゆえ に小回りがきかず当初はずいぶん戸惑いました。しかし心エコーをとりながら患者さんと会話をしていると、患 者さんはどこにいても同じであることに何かしらほっとさせられています。CRTの症例は年々メイヨーでも増加 しており、2005年は年間約100例にのぼる見込みであるにもかかわらず、当施設ではこれまで心エコーに よる体系的な評価は確立されていませんでした。現在心エコー、EP、心不全グループがようやく三位一体となっ てデータベースを整備し始めているところです。
 未熟ゆえにまだまだ頭を抱えることの多い毎日ですが、患者さんからいただいたデータをどのように患者さん に還元できるかということを念頭に置き、今後も努力していきたいと思います。


■ 平成16年度 第2回 ■

吉福 士郎

[帰国報告]

 2004年9月から2006年8月末までアメリカのミネソタ州RochesterにありますMayo Clinicのエコーリサーチ センターに留学しました。私の研究は、Harmonic to fundamental ratio (HFR) というコントラストエコーの障 害となるattenuationに対して補正を行う技術を用いてその有用性を検討するものでした。HFRは私のボスであっ たBelohlavek先生が提唱された新しい技術で、超音波機器から照射されて戻ってきた超音波のRF信号から得られ るFundamentalとHarmonic周波数のピーク値の比のことです。この技術を使うと、血流のある心筋では attenuation下でもこの比が小さくなり血流の少ない心筋では比が大きくなります。
 始めに行ったのが、心筋虚血モデルにおいて虚血の範囲をHFRから構築されたカラー画像から容易に予測でき るかというテーマでした。開胸犬においてAttenuation をシミュレートするためにゴム製のPadを2種類(7 dBお よび14dB減衰するように調整されています)用いて0dB(attenuation無し)、7dB、そして14dBと3つの条件で行 いました。使用したエコー機器はRF出力を備えたVivid 5で、画像は左室短軸像で、収縮期の1:4トリガーにて データを収集しました。コントラスト剤はOptisonをBolusで用いました。左前下行枝もしくは回旋枝を一時的に 完全閉塞させ、コントラスト投与後RF信号を収集しました。比較として一般的な心筋コントラストエコーを施行 し、虚血の範囲をトレースして計測しました。収集されたRF信号から左室全体の1 pixelごとのHFR値をソフトウ エア上で自動計測し、カラー画像で表示させました。HFRの値が大きい場合を赤で、小さい場合青で表示するよ うに設定し、赤色の部位(HFRの値が大きいので心筋虚血の部位を反映すると考えられます)の面積を別の観測 者によって計測しました。結果はattenuation が大きい状況下でも実際の虚血の範囲と高い相関を示しました( 0 dB: R = 0.92、7 dB: R = 0.94、14 dB: R = 0.90)。この成果は2006年のACCで発表し、the Journal of Ultrasound in Medicineに、"Parametric Detection and Measurement of Perfusion Defects in Attenuated Contrast Echocardiographic Images" というタイトルでacceptされ、現在出版中です。
 次に行ったのが心内腔の面積をHFRの分布から半自動で求められないか、というものでした。実際には、短軸 像において心腔を含めた左室全体のHFRをピクセル単位で算出させ、そのヒストグラム表示にて、容易に左室と 左室腔の分布を分けることが可能でした。左室腔のピクセルを積算して面積を算出したものと実際の心腔の面積 との間にも高い相関が認められました(収縮期 0dB: R = 0.95、7dB: R= 0.94、14dB: R= 0.91、拡張期0dB、 7dB、14dB: R= 0.95)。この成果は2006年のASEにて発表し2006年12月、Ultrasonics に "Parametric harmonic-to-fundamental ratio contrast echocardiography: A novel approach to identification and accurate measurement of left ventricular area under variable levels of ultrasound signal attenuation" というタイトルで掲載されました。
 これらの仕事は約1年半で終了して、最後に行いましたのがHFRの値の変化により局所の心筋血流速度を予測で きないか、というテーマでした。冠動脈の血流をコントロールして局所のHFRを計測し、Microsphereにより実際 の血流を測定しました。この結果は現在解析中です。
 Mayo Clinicの超音波医学部門は臨床だけではなく基礎系もしっかりしており、私の研究テーマ(HFR)もまさ に超音波工学より生まれたコンセプトが元になっており、基礎的な実験、研究を経て、私の研究(動物実験)へ と受け継がれました。解析するために必要なプログラムの開発にも少しかかわることができ非常にいい経験がで きました。次はいよいよ臨床応用というところで、帰国いたしましたので、可能ならば是非日本でも研究を継続 したいところです。心臓コントラスト剤は、現在日本では一剤しか使用できませんが、アメリカでは新しいコン セプトのコントラスト剤も続々と開発されており、今後も発展する分野だと確信しております。
 最後に、このような貴重な留学におきましてご支援していただきました心エコー図学会に厚くお礼申し上げま す。(2007年2月)

[経過報告]

 私は2004年9月より、米国ミネソタ州ロチェスターにありますメイヨークリニックに留学しています。その 中でも著名な先生が沢山おられる心エコーラボの一部門であるTranslational Ultrasound Research Unit (TURU)に私は所属し、犬を使った動物実験をしています。私に与えられたテーマはコントラストエコーに関する ことで、BossであるMarek Belohlavek先生の提唱する新しい理論を使い心筋内の血流評価を行っています。実験 のない日はデータをオリジナルのソフトウエアで解析しその結果を次の実験に生かすといった日々を送っていま す。基礎の領域と臨床の領域の間を埋める役割を持つTURUには現在チェコ共和国やインドからの留学生がいてそ れぞれ立派な仕事をしていてとても刺激になります。一方臨床部門であるEchocardiography Research Centerで は一日約300件の心エコーを行っています。毎日のようにカンファがあり私も時間があるときにはカンファに参 加しています。
 メイヨークリニックのあるロチェスターは人口約9万人程度の小さな街です。冬は-20度という南国育ちの私 には考えられないような寒い日がありますが暖房設備や地下道がちゃんと整備してあり非常に快適です。街の人 も優しく、車の運転もせかせかしておらず譲りあう光景をよく目にし、心が和みます。
 貴学会から海外留学助成を受けましてこのようなすばらしい環境の中で勉強させていただけることを大変感謝 しております。この場を借りて厚く御礼申し上げます。(2005年6月)


■ 平成15年度(第6回) ■

嶋田 芳久

[帰国報告]

スタンフォード留学体験記

 2002年12月から2005年8月にわたり、 日本心エコー図学会からの海外留学助成により米国スタンフォー ド大学で勉強をする機会をいただきました。大学はサンフランシスコから車で30分程南、北カリフォルニア・ シリコンバレーの中心部に3300ヘクタール(甲子園球場880個分)もの広大なキャンパスを構えています 。この地域は東側をサンフランシスコ湾に、西側を太平洋に面した半島にもなっており、1年を通じて気温の変 化や雨も少なく、住むにはこれ以上ない気候に恵まれている人気の地域です。また同時に全米で最も経済的・先 端技術的に進んだ地域でもあり、スタンフォード大学の歴史はまさにシリコンバレーとの歴史でもあります。ア メリカは1974年~1988年の戦後最大の大不況期を乗り越え好景気に至りましたが、その原動力はIT産業を中心と したベンチャービジネスの成長で、 シリコンバレーには全米の約3分の1のベンチャーキャピタルが集中して います。スタンフォードの学生・卒業生・教員達が起こしたベンチャー企業は数知れず存在し、ガレージから出 発したヒューレット・パッカードをはじめ、他にもディスクドライブを開発したIBM、マイクロプロフェッサー を開発したインテル、パーソナルコンピューター革命を起こしたアップル、インターネット閲覧ソフト先駆けの ネットスケープコミュニケーション、ホームページ検索システムを開発したYahoo、昨年NASDAQに上場し話題を 独占したGoogle、JAVAで有名なサンマイクロシステム(SunはStanford University Networkの略)、それ以外に もアドビ、シマンテック、シスコシステム、eBayと数えきれません。
 世界屈指の先端技術を誇るスタンフォード大学は、同時に世界最先端の医療も提供しています。スタンフォー ド・メディカルセンターはNews&World Report誌が報告したAmerican Best Hospitalsの一つにも選ばれており、 循環器科にも世界的に御高名な先生方が多く所属されています。インターベンションの分野では、フォガティー カテーテルで有名な T.J.Fogarty先生、OTWバルーン・DCAを開発された J.B.Simpson先生、冠動脈ステント生み の親 S.H.Stertzer先生、モノレールバルーン・血管内超音波装置(IVUS)を開発された P.G.Yock先生がそうで す。私が所属したCRCI (Center for Research in Cardiovascular Interventions)は、その Paul G. Yock先 生と私の直属のボスであったPeter J. Fitzgerald先生が中心となり、1994年に設立されました。CRCIには全米 のみならず、ヨーロッパ・南米・アジア各国からデータが日々山のように送られてきており、我々フェローを中 心としたスタッフがコンピュータソフトや独自手法を用いて冠動脈疾患の診断、治療の評価、解析、最新医療器 具開発を主に行っています。
 私の仕事は主に日カンパニー依頼の冠動脈イメージング解析月ラボ独自の冠動脈病態解析火カテーテル検査室 でのIVUSオペレータ、の3つでした。一つ目の仕事はCRCIとしての主業務でもあります。CRCIに送られてくる膨 大なデータは殆ど何かしらの国際デバイス企業を介しています。企業側としてはCRCIに解析させることでデータ に客観性・信憑性を持たせ、またCRCIにとってはこれら解析依頼は大きな財源になっているという、すなわちビ ジネス的側面を持ち合わせています。それらデバイスの成功・失敗は業界の世界的マーケットを左右するだけで なく、関連企業の株価まで影響するため、決して(中間)結果を口外しないよう私達は仕事始めに契約書を書か されます。中間結果がでた時には、それら企業の社長や役員・開発者がCRCIを訪れ、プレゼンをしながら吟味を 共にしていきます。二つ目の仕事ですが、これはCRCIの学術的業績に関したものです。CRCIには治療の成功・失 敗の如何に関わらず膨大なデータがあり、これらを集積し、IVUSを中心に MRI・OCT等の先端技術を駆使し少し でも病態の真実に迫れるよう様々な研究が行われています。冠動脈硬化症は複雑な因子がからみあった病態です が、イメージングモダリティーを変えるえることによりその外見を変化させ、中身を少しずつ明かすところが興 味深く、これら解析・研究結果は毎回国際学会を中心に発表されています。三つ目のカテーテル検査室での仕事 は、スタンフォードのphysiciansと個々の症例をdiscussionできる楽しい場でもありました。 昨今の日本人循 環器医の台頭で、彼らは私のような若輩日本人医師の意見も尊重してくれます。全米でのPCIにおけるIVUS使用 頻度は5%程度ですが、スタンフォード・カテラボでは、この現在唯一リアルタイムかつin vivoで冠動脈を詳細 に評価できるIVUSを多くのPCIに併用し、個々の治療に役立てています。
 スタンフォード・メディカルセンターを通じて米国医療を垣間見てきました。最も驚かされたのは、その医療 システムの根本的な違いです。日本は国民皆保険制度に保護され、医療行政を100%公的セクターに任せています が、米国では医療事業を完全にプライベートセクターに切り落としています。医療行政が完全に民間の手によっ てコントロールされており、国民一人一人が自らの責任で持つ保険制度で成り立っています。
 現在日本の医療は米国医療を右ならえで追っていますが、その米国医療も多くの問題に直面しています。日本 が今導入しつつある「まるめ方式」、いわゆるDRGは1970年代に医者独自の治療判断基準優先の限界を是正する ために米国に導入されました。1990年前後には、その問題点を補うべく、検査データに基づく医療、すなわち「 evidence-based medicine: EBM」に取って代わられました。EBM医療行政のもと、医師達はデータ重視に走り、 より多くの、より正確な検査データを求めて診断し治療方針を決定してきました。勢い、より精密な検査方法・ 画像診断法が発達しました。結果として、パラメディカル産業は隆盛を極め、必然的に医療費高騰も付随し米国 保険事業を圧迫しています。各病院は年ごとに加盟保険会社を変更、あるいは適応範囲の縮小を行いました。医 療費を考慮するあまり治療選択の限界が生まれ、加盟している保険の補償額により治療の差別化が図られ、患者 の混乱を惹起しました。日本の一次救急で処方されている薬剤の多くは、米国ではスーパーマーケットで安く売 られており、十分な保険のない患者さんは個人の責任でそれらを購入しています。医療もビジネスである米国で は、大木のため枝葉を切り落とす結果となっています。反面、日本の医療は全国内容・費用ともほぼ均一である ことを売りとしていますが、差別化ができないことが医療費・医療事故増加の原因とも言われ、これらは毎日の ごとくメディアで報道され、医療裁判も増加しています。私にはこの日米のギャップを埋める正解が未だ見えま せんが、米国医療の現在の姿は目標ではなく、あくまでも過程である事を認識しないと、日本の医療が方向を誤 るのではないかと不安を感じます。
 日本心エコー図学会関係者の方々、そして諸先輩の方々が与えてくださったこの留学期間は、私にとって医学 の勉強のみならず、異なった文化・考え方を持つ医療者との交流の貴重な機会となり、様々なことを考える時間 となりました。 今後はこの言葉にし難い感覚・経験を微力ながらも日本に還元することが、皆様へのお礼にな るのではないかと考えております。

[経過報告]

 私は2002年12月よりスタンフォード大学メディカルセンター内の心臓血管リサーチセンターに留学してい ます。Peter J. Fitzgerald 先生のもと、主に血管内超音波を中心とした多施設共同臨床試験の解析を行ってい ます。当研究室は現在主に、今後の虚血性心疾患の治療を大きく変えるであろう Drug Eluting Stent の解析を 行っており、各薬剤の特徴、差異、あるいは至適薬剤用量設定や合併症の評価等もしています。その他にも当研 究室には膨大な数のデータベースがあり、まずはどこから手をつけていいのか迷うほどでした。スタンフォード 大学では臨床そして研究が盛んに行なわれているのは勿論のこと、教育プログラムにも力を入れていて、様々な 講演や研究会が毎日のように主催されています。またここシリコンバレーは研究者のみならず市民の人種も様々 で、欧米人よりもむしろラテン系やアジア系の方が多いように思われます。世界各地からの頭脳が集まる地域で はありますが、その雰囲気は映画俳優が州知事に選ばれた事があらわすようにリベラルで温かいものです。日本 心エコー図学会からの海外留学助成によりこのようなすばらしい環境の中で腰をすえて研究できることを心から 感謝し、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。(平成15年8月)


大門 雅夫

[帰国報告]

 私は2003年10月より2005年9月までの2年間、貴会留学助成金のご援助をいただき、米国オハ イオ州クリーブランドクリニック、心血管画像部門に留学させていただきました。クリーブランドは五大湖のひ とつエリー湖の南側に位置し、Cuyahoga Valley National Parkなど豊かな自然に囲まれたところです。ニュー ヨークやボストンに比べ、物価も安く、生活しやすい場所でもあります。当施設心臓血管部門は全米でも11年連 続No1に選出され、年間の心臓手術件数約5000例、心エコー件数48000件という日本では考えられない 規模の中で、数々の基礎および臨床研究が行われています。その中で、私はDr. Takahiro Shiota、 Dr. James D Thomasのもと、主に3次元心エコーを利用した機能的僧帽弁逆流における弁機能の異常やカテーテルを用いた 経皮的僧帽弁形成術の開発など、様々な研究に参加させていただきました。おかげさまで、2年間の留学の間に AHA7題をはじめとする多くの学会発表を行うことが出来たほか、Circulation誌をはじめとしていくつかの 雑誌に論文発表も行うことができました。また、この2年間でこうした研究のみならず、アメリカの医療システ ムや医療技術など沢山勉強させていただくことが出来たことも大変有意義でした。なかでも大変感心したのが臨 床と直結した研究の進め方です。クリーブランドクリニックでは、膨大な臨床データの蓄積があり、この中から 現在の治療の問題点、改善すべき点など現場の声が常に上がってきます。これを元に新しい技術や治療器具が開 発され、まず動物実験に入ります。ここで動物実験を繰り返す中からこれら新しい技術の効果、安全性が確立さ れ、臨床応用がはじまり、臨床へとフィードバックされていきます。例えば虚血性僧帽弁逆流では手術リスクが 高いために、手術の恩恵を受けられない患者さんが大勢います。こうした患者さんを治療するために、開胸手術 を要しないカテーテルによる僧帽弁形成術が開発されます。このカテーテルによる僧帽弁形成術は動物実験を経 て、すでに臨床応用への扉を開きつつあります。また、僧帽弁形成術後、僧帽弁逆流の再発が多い虚血性僧帽弁 逆流のために、3次元的に僧帽弁の機能異常を解明し、新しい僧帽弁形成リングなどが開発されていました。血 栓症を繰り返す患者さんのために、低侵襲的に胸腔鏡下で左心耳を結紮するような技術も開発されていました。 このようなことが、アイデアの発案、基礎実験から臨床応用まで一つの施設の中で出来ることは非常に効率的と 思われました。このようなことは豊富な症例数と実験をこなせるだけの設備をもつクリーブランドクリニックだ から出来るのかもしれません。しかし、研究と実際の臨床が離れがちな日本のシステムについて、検討する余地 があるのではないかと考えさせられました。
 また、日本に比べて商業化されたアメリカの医療というものについても考えさせられました。アメリカでは病 院の名声、reputationが上がればお金も取れるし、寄付も集まるわけです。クリーブランドクリニックではテレ ビスタジオおよび専属スタッフまで所有しており、自分たちの技術宣伝を行う番組なども作っていました。この スタジオを作ってから、病院への寄付は3倍になったそうですから、笑えたものではありません。また、ドクタ ーの中には、M.DだけでなくM.B.A(経営学修士)などを取得している人も増えています。保険制度も違う日本に全 て当てはめて考えられるわけではありません。しかし、日本でもどこでも病院の経営が安泰とは言えない上、今 後、自由化診療や保険外の高度先進医療などが医療の現場に入ってくる以上、すこしこのようなことを勉強する 必要もあるのではないかと感じました。
 私の留学は比較的臨床の場での研究でしたので、実際にアメリカの医療現場を見て回ることが出来たことも幸 運でした。実際にアメリカの医療レベルを肌で感じることができましたし、多くの実際の診断、治療を見せてい ただくのも勉強になりました。Dr. Shiotaにはお忙しい中、手術室に連れて行っていただき、実際の術中経食道 エコーや外科医とのdiscussionを見せていただけたのは大変勉強になりました。クリーブランドクリニックでは 心臓血管外科用の手術室が10もあり、1日20件近くの心臓血管手術が行われています。この手術室に1日い るだけで、日本では稀な大動脈弁形成術など大変勉強になる症例を見せていただくことが出来ました。また、エ コーラボのあり方という点でも勉強になりました。心エコーデータは全て自動的にデジタル保存され、中央のサ ーバーに保存されていきます。通常の2次元エコーにしろ、3次元エコーにしろ、すべてのエコーデータはサー バーにつながったコンピュータ上で閲覧、解析ができます。関連病院からのデータや多施設研究のデータもここ で解析することができます。日本でもこういうシステムを持つところが増えているようですが、ますます多様化 複雑化する心エコーの解析を、エコーの機械内蔵のソフトでベットサイドにて解析するのには限界があります。 また、こういうシステムがあるからこそ、多施設研究のエコーデータを効果的に1箇所で解析することも可能で すし、特殊な技術が必要な解析も効率よく解析することが出来ます。日本でも今後このようなエコーのコアラボ というものが必要とされる日も近いのではないかと感じました。先に述べたように、アメリカのシステムが全て 日本に適しているわけではないと思います。しかし、日米医療システムの比較を通して、日本の医療システムを 外から客観的に考えることができたのは留学の大きな収穫でした。今後留学を通して得られた知識、経験を生か して日本の医療に貢献して行ければと考えております。
 最後に、このような機会にご支援くださった貴会およびフィリップスメディカルシステムズ社にこの場を借り て厚くお礼申し上げます。

[経過報告]

 私は2003年10月より貴会留学助成金のご援助をいただき、米国オハイオ州クリーブランドクリニッ ク、心血管画像部門に留学させていただいております。当地に来てからはや6ヶ月が過ぎようとしています。当 施設心臓血管部門は全米でも9年連続No1に選出され、年間の心臓手術件数約5000例、心エコー件数480 00件という日本では考えられない規模の中で、数々の基礎および臨床研究が行われています。その中で、私は Dr. James D Thomas、Dr. Takahiro Shiotaのもと、主に3次元心エコーを利用して僧帽弁機能の異常について 研究しております。この研究は外科手術を含めた様々な治療に直結するものですが、未だ不明な部分が多い分野 です。その分手探りであり、苦労も多いですが、多くの症例数に加え、解析ソフトのプログラマーやDr Patrick McCarthyなどの高名な心臓外科医と直接意見を交えながら研究をすすめられるという恵まれた環境にあります。 日々苦闘の連続の中で、新しい事実に行き着いた喜びは何事にもかえがたいものがあります。このような機会に ご支援くださった貴会およびフィリップスメディカルシステムズ社にこの場を借りて厚くお礼申し上げます。( 平成16年3月)


築地 美和子 (川崎医科大学)

[帰国報告]

 私は2003年9月から、2005年5月までの約2年間、米国California州のStanford大学(心臓血管内科、心臓 MRI部門)に留学させて頂きました。Stanfordは、米国西海岸のCalifornia州に位置し、San Franciscoから南へ 高速道路で約40分程度のところにあります。治安が非常に良いことで知られ、また気候に大変恵まれた地域です 。緑も多く、リスやアライグマ、時にスカンクに大学構内で遭遇するのには驚かされました。
 Stanford大学は、1891年に開設された私立大学であり、大陸横断鉄道で成功を収め、California州知事、上院 議員も歴任したLeland Stanford氏が、若くして病死した息子を悼んで、彼の持つ農場の1角に創設したのが始 まりです。学問、学部の境界を越えた共同研究の場やスポンサー付きの研究を受託する機関を容易に設立できる 学風は、Stanford大学の最大の特徴であり、民間企業の出資で大規模な研究センターが設立されることも、分野 を問わず日常的なことのようです。大学の研究費と施設を使って作った技術をもとに、教員が優秀な学生を引き 連れて起業することはよくあることで、1939年当時学生だったヒューレットとパッカードが大学近くの住宅街の ガレージでベンチャー企業ヒューレットパッカードを設立し、現在のシリコンバレーの基になったサクセススト ーリーは皆さんも御存知ではないでしょうか。また、Stanford大学は、The Stanford Management Company(SMC )という組織によって運営されている大学であり、SMCは住宅、デパート、ショッピングセンター、高級ホテル 、クリニックセンター、独自の郵便、通信、消防、警察システムを有する巨大学園都市を運営し、シリコンバレ ーの優良企業の1つになっています。非常に広大な土地に多くの施設が建てられているため、学内移動用の無料 循環バスが常時運行しています。
 私はStanford大学病院の心臓血管内科に所属し、臨床および研究Staffのためのカンファレンス にまず参加させて頂きました。Echo conference, Vascular Medicine Lecture Series, Vascular Biology Seminar, Cardiomyopathy conference, Case conferenceといったカンファレンスが昼から約1時間、ほぼ毎日 開かれ、Stanfordあるいは他大学の著明な先生方の講義やStanfordで行われている研究の最新の結果報告などを 聞くことができ、大変貴重な機会でありました。また、Research fellowとして心臓MRIの研究に従事させて頂き ましたが、留学に際して、Stanford大学でしか出来ない最先端の研究だけに携わるより、帰国後も生かせる、あ るいは続けられる研究をしたいと考え、臨床研究を始めました。米国に来て最初の仕事が、臨床研究の対象とな る患者さんに直接電話をかけ、ボランティアとして研究に参加してくれるようお願いすることでした。膨大な患 者リストから研究の対象となる疾患の患者さんを選び出した後、以前の心エコー図、カルテなどを見直し、更に 外来主治医に連絡をとり許可を頂いた上で患者さんに電話をかける毎日でした。留学当初の私の拙い英語でボラ ンティアを集めることは、一苦労でしたが大変貴重な経験となりました。その後、重症の冠動脈疾患患者に対象 を絞り研究を続け、その成果を今春American College of Cardiology 54th Annual Scientific SessionのYoung Investigators Awards Competition にて発表させて頂くことが出来ました。(Peri-infarct Ischemia Determined by Comprehensive MR Evaluation of Myocardial Viability and Stress Perfusion Predicts Future Cardiovascular Events in Patients with Severe Ischemic Cardiomyopathy. J Am Coll Cardiol 2005: 45(3): Suppl A 446A )
 また、この2年間米国で生活する中で、米国人だけでなく、イタリア、イスラエル、フィリピン、韓国など異 国の多くの友人も得ることが出来ました。他国の文化、生活、宗教、思想に直接触れることができ、一生涯の財 産となる経験が出来ました。
 最後になりましたがこの貴重な留学に際しまして、心エコー図学会から御助成を頂けましたことを心より深謝 致しております。

[経過報告]

 2003年9月より米国カリフォルニア州にありますスタンフォード大学循環器内科に留学しております。 Cardiac MRI Laboratoryに所属し、主に心筋Viabilityについての研究に従事しております。臨床研究を中心に 行っておりますので、大学の倫理委員会への申請や患者あるいはボランティアへのインフォームドコンセントな どに直接携わることができ、多くの貴重な経験を積むことができています。また、循環器だけでもClinical echocardiogram, Cardiomyopathy, Catheter case, Vascular medicine lecture seriesなどの分野に分かれた Lunch conferenceがほぼ毎日あり、Lecture seriesでは、他大学から世界的にも著名な先生が招かれます。非常 にカジュアルな雰囲気の中で時に白熱する活発なdiscussionが行われ、非常に興味深く楽しく参加させて頂いて います。貴学会から貴重な助成を頂き、このような恵まれた環境で臨床研究に従事できますことを深く感謝し、 この場をお借りして厚く御礼申し上げます。(平成16年4月記)


■ 平成14年度(第5回) ■

國近 英樹

[帰国報告]

米国留学を振り返って

 このたび、University of California, San Diego, UCSD Medical Center, Division of Cardiology( カリフォルニア大学サンディエゴ校循環器内科)から帰任するにあたり、米国留学についてご報告いたします。
 同循環器内科主任教授Dr. DeMariaは心エコー領域では世界的に有名な指導者であり、彼からは米国での研究 を通じて一貫した哲学を学ぶことができました。ある分野でリーダーシップをとり続けている先立者を間近にし 、同じ研究時間を共有できる喜びを感じることができたのも、今回の留学で得た大きな事柄でした。また英語と いう言葉の障壁が我々日本人にはあっても、学問だけは世界共通でボーダーレスということを日々実感する毎日 であったように思います。研究結果については、2002、2003、2004年と連続してAHAにて発表する機会が得られ 、また論文も留学滞在中にJournal of the American College of Cardiology (JACC)に2報掲載することができ ました。具体的な研究内容としては、コントラスト心エコーを用いて、急性心筋梗塞後におこるno-reflow現象 を心筋微小循環レベルで画像解析し、新しい梗塞心筋描出方法と再灌流障害の程度との関係や、GP IIb/IIIa inhibitor 薬が心筋梗塞領域の冠微小循環に及ぼす影響を明らかにすることができました。
 AHA2002は、Windy Cityと称されるシカゴで小雪が舞い散る中開催されました。テロ直後に開催されたAHA2001 (アナハイム)では日本人参加者をみることはほとんどありませんでしたが、会場であったMcCormic Placeは極 めて広いにもかかわらず多くの日本人参加者を見ることができ、世界情勢が徐々に安定してきたことが影響した のだと安心したことを憶えています。そして会場では素晴らしい講演をされている高名なドクターを間近にでき る喜びを味わうことができた学会でした。
 2001年に起きた9/11テロ事件以降、諸外国から来る研究者にも厳しい監視の目が向けられるようになりました 。米国滞在中は留学プログラムに則って、米国研究ビザ、滞在許可書類を大学との契約更新にあわせて、その都 度面倒な書類申請をしなくてはいけませんでした。そして肝心であるUCSDメディカルセンターでの研究をするに あたっても膨大な書類(研究内容の所有権など)に目を通してサインをしなければならず、赴任直後から日本で は考えられないような作業の連続となりました。さらに我々諸外国からの研究者を取り巻いている大きな問題と してビザ(米国入国許可証)があげられます。当時はビザ更新のためにはいったんまず米国外に出国して、海外 のアメリカ大使館で申請手続きを行わなければなりませんでした。(テロ以降の2年間は数ヶ月毎にビザや滞在 諸手続きの方法が変更になり、常にそういった情報に目を向けなければならないストレスにさらされていました 。)ビザ更新のため多くの日本人留学者は日本へ一時帰国しているようですが、テロ事件以降日本でのビザ交付 は2週間から一ヶ月以上待つような状態になっていました。しかしそのために大事な研究時間を削るわけにはい かず、メキシコ国境まで20分というサンディエゴの土地柄を活かし、私達はメキシコのアメリカ領事館に行っ て一日でビザ更新を行いました。しかしこれが結構大変で、領事館の周りでさえも一切英語が通じません。(も ちろんスペイン語ですが、全くといっていいほど英語を誰も使いません。)さらに領事館で、もし万が一書類に 不備や問題があった場合は米国への再入国ができず、日本へ送還されて更新の手続きが最初からやり直しになる といった具合です。実際再入国できず日本へ帰国させられてしまった方もおられるようでした。諸外国から訪米 している者に同時テロが与えた影響は他にも計り知れなく、病院の中だろうが米国内にいる限りID(身分証明) を常に携帯する環境で、生活を送ることを余儀なくされているような状態でした。
 多族を抱え込む米国において私なりに留学を通して感じ取ったものは、医師はあくまでも医学を追求する科学 者であり、論理的知識背景に基づいて治療方法を選択し、患者に還元するという大きな使命の中に立たされてい るということでした。そして医師全員が研究できる環境が普通にあるという、研究に対する懐の広さでした。し かし現在米国経済も失速してきている中、アメリカの傲慢さ、無駄の多いところなども、多くの欠点として随分 と見えてきたというのも事実です。日本においても我々医師全員には本来純粋に学問を追及する環境が必要であ り、それを整え支えていくことの重要性をこの留学を通じて改めて認識するようになりました。
 最後になりましたが日本心エコー図学会からの留学助成に感謝し、UCSDメディカルセンターで培った経験が、 一人でも多くの患者さんに役立つよう、また心エコー図学会の発展に活かせるように今後も引き続き努力してい きたいと思います。

[経過報告]

 私は現在、米国カリフォルニア大学サンディゴ校 UCSD Medical Centerの循環器内科Cardiac Ultrasound Laboratoryに留学しております。同センターはサンディエゴダウンタウンの中心に位置しており、そこでは超音 波循環器学(特に心コントラストエコー領域)の重鎮であるDeMaria教授の循環器内科に在籍し、研究及び診療 に従事しています。幸いDeMaria教授のよき理解を得ることができ、動物実験と同時に米国での臨床現場での研 究機会にも恵まれ、心筋虚血・再灌流治療と心筋コントラストエコーとの関係を中心とした研究の日々を送って おります。お陰様で、AHAや米国心エコー図学会等で成果を発表することができています。しかし今のアメリカ は全くの平和国家ではなく、ブッシュ大統領の言葉を借りれば"テロに対する戦時下"なので、私の毎朝起きてか らの一番の仕事は、CNN ニュースをみてまずテロがおきていないかを確認する事です。そのような緊張感の中、 アメリカの医学界での共存・競争を自分なりの視点で学んでいます。最後になりましたが、日本心エコー図学会 からの留学助成や皆様からの応援に心より感謝し、UCSDメディカルセンターでの研究が、一人でも多くの患者さ んに役立つよう頑張りたいと思います。(平成14年10月)


坂田 泰史

[帰国報告]

1.はじめに
 ヒューストンは近郊都市を含めた人口は約300万人で、New York, Los Angels, Chicagoに次ぐ全米第4の大都 市である。ただし、他の大都市と異なり、高層ビルはダウンタウンの一角に限られ、どこに行っても豊かな緑と 広いスペースがあり、アメリカの大都市特有の狭苦しい感じは全くなかった。これは、広大なテキサスの一角に あることも影響しているのかもしれない。ただ、市内の移動は、路線バス・路面電車以外には公共交通機関はな く、広いヒューストンを移動するにはまず車は必需品であった。もちろん、駐車スペースには事欠かない。冬は 、大変あたたかくコートを着ることは一年に1.2度だったが、その分夏は非常に暑く、7月8月は毎日40度近くま で上昇した。また、メキシコ湾が近くにあるため湿度も高く、エアコン無しではとても生きていけなかった。

2.研究テーマと結果
私は、Douglas L Mann教授のもとで、サイトカインと心不全を主テーマとして2つの研究を進めた。

・TNFα誘導性心拡張機能障害に対するTGFβの関与 --- TGFβ受容体遮断薬の効果
 心エコ―法による心機能指標が何を示しているかについて、従来の臨床研究や、大動物を用いた実験では心力 学理論、実際の生体内での測定値、心機能に影響する因子のmacro levelでの検討にとどまっており、micro levelの変化をどう反映しているかが検討されていなかった。本研究は、遺伝子改変動物を用いることにより、 micro levelの異常を従来の方法より容易にコントロールでき、詳細な変化を捉えることができるのではないか と考えた。
 サイトカイン特にTNFαはその生活習慣病による心不全発症に関与していることが明らかとなっており、TNFα 発症メカニズムとその治療法を確立することは重要である。我々の研究室では以前よりTNFαを心筋特異的に発 現したマウス心不全モデル(MHCsTNF)を確立しており、心肥大・心筋線維化を伴い、心拡大・心機能低下をきた す。また、病態の進行とともにTGFβ mRNAレベルが上昇することが確認されている(Circulation, 2001; 104: 826 - 831)。今回我々は、経口投与可能なTGFβ受容体遮断薬(NPC40208, 100mg/kg/day)をMHCsTNF 、その littermate (WT)に対し4週齢より8週間(12週齢まで)投与し、同マウスモデルの心機能、心筋組織変化に与 える効果を検討した。12週齢において、ランゲンドルフ心臓灌流法を用いた心機能評価では、収縮機能、弛緩能 に差を認めなかったが、拡張機能を構成する左室スティフネス定数が、WTに比しMHCsTNFで上昇しておりTNFαに より心室のスティフネスが高まったと考えられたが、TGFβ受容体遮断薬の投与により軽減された(下左図)。 よって、心筋組織になんらかの変化をきたしたと考えられたため、心肥大・心筋線維化を評価するため、心重量 と%area of fibrosis(sirius red染色による)を検討したところ、ともにMHCsTNFにて増加していた心重量、% area of fibrosisは、TGFβ受容体遮断薬にて減少していた。特に%area of fibrosisは有意に減少していたこと (下右図)より、TGFβ受容体遮断薬の左室拡張機能改善効果は主に心筋線維化減少によりもたらされたと考え られた。以上より、TNFαはTGFβを介し心筋線維化をもたらし、左室拡張機能障害をきたしている可能性が示唆 された (AHA Scientific Sessions 2004にて発表)。これらのマウスは、心筋線維化により心室のスティフネス 上昇のみを呈するモデルであり、心エコー法にてスティフネスを測定するには最適のモデルと考えられた。しか し、左室駆出率などの心収縮機能、左室拡張末期径などの心形態の指標はいずれも差を認めなかった。また、 E/A、DTなどのドプラ所見も差を認めずこれらの方法ではやはり心室スティフネスの上昇を直接的・間接的に検 出することはできないものと考えられた。今後は、左室心筋組織性状などの心筋性状の直接評価、ストレイン法 などを用いた微細な心筋動態の評価が必要と考えられた。

 

3.最後に
 2年間のヒューストン生活でしたが、公私共に得るものは大きく、私の人生にとってきわめて重要な2年間とな りました。また、家族も含めさまざまな経験を蓄積することができ、本当に幸せな2年間でした。これを糧にい っそう臨床・研究に精進し、社会へ還元していきたいと思っております。本当にありがとうございました。今後 ともご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。

4.研究成果
 Sakata Y, Huang CH, Akira S, Vallejo J, Mann DL. Toll-like Receptor 2 Mediates Ischemic/Reperfusion-Induced Left Ventricular Dysfunction. Circulation 2003. 108, IV-188 (abst) Knuefermann P, Sakata Y(co-first author), Baker JS, Huang CH, Sekiguchi K, Hardarson H, Takeuchi O, Akira S, Vallejo JG. Toll-like Receptor 2 Mediates Staphylococcus aureus-Induced Myocardial Dysfunction and Cytokine Production in the Heart. Circulation, 2004, 110: 3693 - 3698 Sakata Y, Sivasubramanian N, Schreiner G, Mann DL. A Novel Orally Available Transforming Growth Factor-β Inhibitor Prevents Myocardial Fibrosis and LV Diastolic Stiffness in a Transgenic Mouse Model of Tumor Necrosis factor Overexpression C(時点)

[経過報告]

 私は2002年7月より、米国テキサス州ヒューストン市にあるベイラー医科大学循環器内科学に留学し、 Douglas Mann教授のご指導のもと、「サイトカインによる心不全発症メカニズムの解明と、新しい治療戦略の確 立」をメインテーマに、研究に従事しております。その中でも私は、サイトカインに関係した様々なタイプの遺 伝子改変動物に対し心エコー法を中心とした心機能の詳細な測定を行い、その差異・メカニズムを解明するとい うin vivo研究に携わっております。遺伝子改変動物は非常に興味深いphenotypeを呈しており、苦労もあります が楽しく研究を行っております。また、ベイラー医科大学は心エコー・心不全の分野においても世界的に著明な 先生が多くおられ、そのような先生方のlectureが非常にラフな雰囲気の中毎週聞くことができ、それも楽しみ の一つになっております。貴学会からの助成をうけまして、このような環境で研究に従事できることを心から感 謝し、この場を借りて厚く御礼を申し上げます。(平成14年10月)


平田 久美子

[帰国報告]

 吉川先生(大阪市立大学第一内科の前教授、現 掖済会病院院長)に、"アメション"という言葉知っとる か?ちょっとアメリカに行って、ションベン(すみません)してくるっちゅう意味や。そんな感じで、気軽に勉 強して来なさい。と、言われ、笑顔でアメリカに送り出されたのは、4年前のことでした。
 2001年12月から2004年6月まで米国コロンビア大学医学部付属病院の循環器内科に留学しました。 コロンビア大学付属病院は、マンハッタンの北の端、スパニッシュ ハーレムの中心にあり、患者の9割以上は 中南米からの移民の方々でした。そのため、米国なのに英語はほとんど通じませんでした。まず覚えたのは、心 エコー図検査の時に患者さんに言うための「息をすって、、、吐いて、、」のスペイン語「レスピレ プロフン ダメンテ、、」とありがとうの「グラーシャス」です。最初はかなり戸惑いましたが、2年も経つと、おじさん に対しては、シニョーレと呼びかけ、あとはジェスチャーでごまかしながら、エコーを撮ってしまうというテク ニックだけ上手になっていました。
 主に、3Dエコー、冠動脈エコーの研究を行いました。渡米後すぐに、本間先生(研究室のボス)から、フィリ ップスの3Dマシーンで研究をしてください。といわれ、しばらくすると、いきなり、箱に入った3Dエコーマシ ーンが部屋の前に届きました。説明書もなく、自分で機械を組み立てた経験もなかったので、びっくりして本間 先生に相談すると、"自分で組み立てられないのなら、フィリップスに電話して訊いてください。"と、すげない 返事をいただきました。日本は至れり尽くせりで良かったなあ、とか、アメリカはDIYの国なんだなあ、としみ じみしながら、英語で、電話で、しかも自分で組み立て、、と、暗澹たる気分になったのを思い出します。初代 の3Dマシーンは、スイッチを入れても、三回に一度くらいしか、立ち上がらないし、検査中に突然、画像が消 えたり、せっかく撮ったイメージを保存できなかったりしたので(これが一番辛かったです)、何度も涙が出そ うになりました。その後、エコーマシーンの改善すべき点について、フィリップスの人たちと下手くそな英語で 何度も話し合いました。二代目、三代目プロトタイプ3Dマシーンになってくると、だんだん、それらしい3次 元的な画像になってきました。正直、4年前に初代の3Dマシーンの画面に浮かぶ灰色のうごめく物体を見て、 それが心臓だとわかる人はひとりもいませんでしたし、私自身、10年以内にこの機械が市販にこぎつけること があるのだろうか?と、大層不安に感じていました。しかし、その後1年少しで、4代目の3Dエコーマシーン が商業ベースに乗りましたので、フィリップスの技術陣の能力はすごいと思います。留学期間中、ずっと3Dマ シーンと一緒に過ごしてきましたので、機械が市販された時は、とてもうれしかったのを思い出します。
 また、冠動脈エコーの研究もしました。同じラボに留学していたマレーシア大学の教授と一緒に、SLE患者の 冠動脈予備能(CFR)の研究をしました。コロンビアではなかなか患者が集まらなかったので、結局、マレーシ アまでエコー検査に行きました。インド人の女医さんと朝から晩までCFRの測定を行いました。今でも彼女とは いい友達です。マレーシアは、いい人ばかりで、食べ物もかなりおいしく、何度でも訪れたい素敵な国です。
 コロンビアのエコー室のメンバーは、本当にいい人ばかりで、人間関係にも恵まれていたと思います。ラテン 系のヒトが多く、彼女達はとても陽気で、毎朝、ハーイ、ハニーとウインクされます。わたしも、ハーイ、ハニ ーって、言い返さなければ、と思うのですが、恥ずかしくて、結局一度も言えませんでした。同僚の医師も、い い人ばかりで、なかに、会うたびに英単語を一つずつ教えてくれる親切なアメリカ人医師がいました。私の拙い 英語の文章もびしびし添削くれますので、まるで英語の先生のようなありがたい存在でした。それに、なんとい っても本間先生が大きな存在でした。いつでも親切に相談に乗ってくださり(しかも日本語で)、適切な助言を下 さり、いつもみんなの将来のことを考えておられる本当に頼りになるボスでした。
 留学して良かったことは、数え切れないくらいありましたが、ひとつは、日本やアメリカを含む世界の国につ いて考える機会が多くなったことだと思います。研究室では、アメリカ人や他の国から来た研究者と話す機会が 多く、様々な国民性や価値観、その歴史的背景に触れることができて、大変勉強になりました。ひとりの日本人 として、世界の中の一個人として、今後、世界の人々とどのように接して行けばいいのか、また、世界の中での 日本のあり方についてなど、いろいろ考えさせられることも多かったように思います。
 2年半の間、本当にいろいろなことを勉強させていただきました。アメリカ留学という貴重な機会を与えてく ださった吉川先生をはじめ、今までお世話になった全ての方々に、特に、貧乏な私に留学助成金をくださいまし たフィリップス社様にこの場を借りてお礼を申し上げたいと思います。本当に有難うございました。(時点)


宮坂 陽子

[帰国報告]

 2002年9月1日より米国Mayo Clinicに4年間留学し、2006年9月に帰国しました。Mayo Clinicにおいて はDr. Teresa Tsang の指導の下、Research Fellow (Cardiovascular Disease) として研究に従事し、2004年か らSenior Research Fellowとなって継続、2005年10月からはAssistant Professor of Medicine, Mayo Clinic College of Medicineに推挙され、今日に至っています。

米国学会での賞および資格
 2005年にはThe Women in Cardiology Travel Grant of the American Heart Associationを、2006年にはThe Young Investigator Award of the American College of Cardiologyを授与されました。

研究課題
 心房細動の臨床研究と、左室拡張能の心エコー法を駆使した臨床研究を行いました。すなわち、
(1)心房細動の心不全、脳血管障害などの合併症、虚血性心疾患,認知症に関する臨床研究を行いました。20年 間におよぶ心房細動を伴った約4600症例を病誌から心エコー指標も含めて30数項目を抽出し、これらの項目が 年代ごとにいかに病態、頻度の変化を示すかを調査・研究しました。
(2)高血圧症、肥満の左室拡張能の特性を検討しました
(3)ハンドヘルドエコー装置の臨床使用における制限を検討しました。
留学中の業績に関して、学会発表はAHA学会が14題(うち筆頭演者が11題)、ACC学会が12題(うち筆頭演 者が8題)ASE学会が8題(うち筆頭演者が5題)です。論文数は10篇(筆頭著者が5篇)、現在投稿中が2篇 、投稿準備中が2篇です。

主な業績
(筆頭著者論文)
1. Time trends of ischemic stroke incidence and mortality in patients diagnosed with first atrial fibrillation in 1980- 2000: report of a community-based study. Stroke 2005; 36: 2362-2366.
2. Incidence and mortality risk of congestive heart failure in arial fibrillation patients: a community-based study over two decades. Eur Heart J 2006; 27: 936-941.
3. Secular trends in incidence of atrial fibrillation in Olmsted County, Minnesota 1980-2000, and implications on the projections for future prevalence. Circulation 2006; 114: 119-25.
4. Coronary ischemic events after first atrial fibrillation: Risk and survival. Am J Med 2006 (in press).
5. Mortality trends in patients diagnosed with first atrial fibrillation: a 21-Year community-based study. J Am Coll Cardiol 2006 (in press).
(共著者論文)
1. Prediction of first ischemic stroke in an elderly cohort without atrial fibrillation: clinical significance of left atrial volume. Mayo Cln Proc 2004; 79: 1008-14.
2. Epidemiologic profile of atrial fibrillation: a contemporary perspective. Progress in Cardiovacular Disease 2005; 48: 1-8.
3. Prediction of cardiovascular outcomes with left atrial size: is volume superior to area or diameter? J Am Coll Cardiol. 2006; 47: 1018-1023.
4. Arterial stiffness: relation to left ventricular diastolic function and cardiovascular risk prediction. Am J Cardiol 2006 (in press).
5. Effects of quinapril on left atrial structural remodeling and arterial stiffness. Am J Cardiol. 2006; 97: 916-920.

最後に
 Mayo Clinicで臨床研究の厳しさと研究システムのすばらしさを感じることが出来たことは、私にとって何も のにも変えがたい収穫でした。もちろん、研究テーマであった心房細動に関して、考えられない症例数から経年 的な病態の変遷、心・脳血管障害、心不全、さらに認知症の実態を知れたことは、今後、増加が予想される心房 細動の本邦での特異性の有無も追求する必要を感じています。さらに、共同研究者として参画した左房サイズ、 左室拡張能の意味するところを心エコー法を用いてさらに掘り下げて行きたいと思っています。あらためて貴学 会に深く感謝いたします。(2006年9月)

[経過報告]

 私は2002年9月より、米国ミネソタ州ロチェスターに位置するメイヨークリニックの循環器科心エコーラボ に留学しています。ロチェスター≒メイヨークリニックと思えるくらい町は世界から集まる患者のためのホテル や付帯施設で溢れ、そこに集まる人々も私のような研究者も含めいろんな国、人種に会うことが出来ます。
会員の皆様もご存知の通り、現在、心エコーラボでは心拡張能に関する研究に1つの焦点が当てられていま す。私もその基本線上にある心房細動がもたらすさまざまな合併症、予後に与える因子の検討を数千に及ぶ症例 を対象に行っています。臨床研究の障害はこのようにすれば円滑に出来るのかということを実感させる研究組織 、体制のすばらしさを感じながら、毎日、毎日データと格闘しています。アメリカにおけるテロ対策、戦争、こ れらと無縁と思えるロチェスターの町並みと静かな時間になぐさめられながらの毎日です。
 最後になりましたが、貴学会からの留学助成の受賞は私に大きな勇気を与えていただけました。このような素 晴らしい環境の中で研究させて頂ける事を感謝し、日々の努力を続けて参りたく思います。(平成15年9月)


■  平成13年度(第4回) ■

氏野 経士

[帰国報告]

 2001年9月11日アメリカ・ニューヨークやワシントンで同時多発テロ事件が起こりました。私は妻、4歳にな ったばかりの娘、生後8ヶ月の息子の3人の家族とともに、ちょうどその1週間前にアメリカに到着し、生活のセ ットアップを始めたところで、まだ部屋はテレビも電話も使えない状態でした。友人の家のテレビで見たその映 像はあまりにも衝撃的で、同じ国に住んでいるとは到底思えませんでした。街の中心から車で数分走るとコーン 畑で、牧場には牛や馬がいます。メイヨークリニックのあるミネソタ州ロチェスターはとてものどかな町でした 。
 ミネソタ州といわれても、よほどアメリカに興味のある方以外には、すぐにはわからないと思います。ミネソ タ州はアメリカの西海岸からも東海岸からもほぼ等距離の真ん中で、かつ一番北側にあります。カナダとの国境 を有しており、東には五大湖のひとつスペリオール湖、ミシシッピー川と接しています。メイヨークリニックの あるロチェスターはミネソタ州の南東にあり、州で一番の都会のミネアポリスから車で約1時間半のところにあ ります。人口8万6千人の小都市で、メイヨークリニックと同じく市内にIBMがあり、この両施設に関連した人た ちで一つの街が出来上がっています。冬の寒さはとても厳しく、1月の平均最低気温はマイナス16℃で、北海道 の旭川よりも寒いです。一方で、夏はとても短いですが、かなり暑く(7月の平均最高気温は28℃)、夏時間の おかげもあって夜遅くまで明るく、人々は短い夏をスポーツやイベントでいろいろと楽しんでいます。

 メイヨークリニックの歴史は今から120年ほど前にトルネードが襲った街にMayo兄弟が開設した病院に始まり ます。その後、各地から優秀な医師を招聘し、その規模を徐々に拡大していき、現在の総病床数が約2500床(ロ チェスターのみ、アリゾナやフロリダにも大規模の関連病院があります)、従業員4万人で、米国のみならず、 世界をリードする巨大医療機関となったのです。
 たくさんの大きなビルがロチェスターの街の中心部にあり、ちょうど2003年に最も新しいGondaビルがオープ ンしました。私の所属したEchocardiography Laboratory(Echo Lab)も、もっとも古い建物の一つである Plummerビルの地下1階と7階に分かれてあったのですが、2004年1月からGondaビルに引越しがあり、そのような 面でも両方の場所を知る貴重な体験をしました。
 メイヨーの循環器部門であるDivision of Cardiovascular diseasesの循環器内科医スタッフは約140人で、そ れにレジデントやフェローといった若手が数十人いました。Echo Labにはそのうち約50名のスタッフが従事して おり、さらに約50人のソノグラファー、数十人の秘書や看護師、研究者がいます。エコー検査の部屋は全個室で 、50ほどある個室にそれぞれ一台ずつある心エコー装置でとっていました。
 また院内の有名な医師や研究者だけでなく、海外からも演者を招聘して、講演や講義が多数行われ、循環器関 連だけでも毎週3,4回そうした講演があるので、新しい知見が増える機会に恵まれております。

 実際私が従事した研究は、Dr Seward とDr Tsangのもとで、拡張能、左房容積とその予後の関連性に関する研 究をさせていただき、2002年のOrlando、2003年のLas VegasのASEで発表する機会を得ることができました。Dr. Chandraとは他のリサーチフェローとともにTransplant後の心エコー図所見について研究しましたし、Dr.Ohには AMIとContrast Echoや拡張能をからめた仕事をする機会をいただき、2004年のSan DiegoのASEでの発表や2005年 のAmerican Journal of Cardiologyに" Usefulness of Real-Time Intravenous Myocardial Contrast Echocardiography in Predicting Left Ventricular Dilation After Successfully Reperfused Acute Myocardial Infarction"というタイトルで論文を発表することが出来ました。
さらに多くの臨床症例をDr TajikやDr Saranoなどの著名な循環器医スタッフによる解説を聴くこともでき、日 本では学べない多くの経験をさせていただいたと思っています。

 最後になりましたが、このような貴重な経験をするに際しまして、日本心エコー図学会海外留学助成金の援助 をうけることができ、大変感謝しております。これからはこのすばらしい経験を日本の臨床の場に活かし、また 新しい臨床研究へと取り組んでいく所存です。(時点)

[経過報告]

 私は2001年9月より米国ミネソタ州ロチェスター市にあるメイヨークリニック心エコーラボに留学しており ます。James B. Seward先生のもとで、左房容積や拡張能と心血管イベントの発生との関連性について研究をし ております。渡米直後の9月11日に全米同時多発テロ事件が勃発し、また炭疽菌事件も起こり、アメリカだけで なく世界が今後どうなっていくのか非常に不安な状態で留学生活がスタートしました。幸いなことに実際の日常 生活においては大きな支障もなく暮らしております。 メイヨークリニックは日々の診療や研究はもちろんのこ と、教育に関しても力を入れており、著名な研究者を招待して行われる講演や研究会から、統計学や疫学のよう な講習、あるいはコミュニケーションの上達法など文化教室的な内容のものまで多種多様に開催されています。 Cardiovascularの分野だけでも月曜日から金曜日まで毎日カンファレンスや講義などが行われており、基礎から 臨床に至るまで幅広い分野の知識を得ることが出来ます。 最後になりましたが、日本心エコー図学会からの海 外留学助成を受けまして、このようなすばらしい環境の中で留学生活が送れることを心から感謝し、この場をお 借りして厚く御礼申し上げます。


神崎 秀明

[帰国報告]

 私は平成13年10月1日より、米国ペンシルバニア州にあるピッツバーグ大学病院にリサーチフェロー として約2年と2ヶ月留学させていただきました。所属は循環器グループ・心エコー部門で、Dr. Gorcsanの指 導のもと、主として組織ドプラ法を用いた心機能解析を行っておりました。
 私が渡米した当時はピッツバーグ大学の循環器科にはProf. Feldmanが在任しており、ガイダント社が出資し たICD機能つき両心室ペースメーカを用いた大規模研究CONTAK-CDのデータ収集が終了したころで、 エコーラボには解析の終了した組織ドプラのデータの一部が残っていました。最初に与えられた課題はこのデー タを利用して3ヶ月後に締め切りのアメリカ心エコー図学会になにか演題を提出することでした。当時、組織ド プラ法を用いた僧帽弁輪の挙動に興味のあった私は、GE社Vivid FiVeに搭載されたVingMed 社のソフトがこの組織速度データプロファイルをテキストデータとして出力できることから、統計的手法を用い て僧帽弁の中隔側と側壁側が1心周期中に描く軌跡の一致率を、数値として取り出すことを思いつきました。こ れは複雑な議論をすることなく、リサーチミーティングにて採用され、運のいい滑り出しとなりました。
このアイデアについて不整脈部門のスタッフDr. Schwartzmanと集中治療室の教授にDr. Gorcsanが話をしたとこ ろ、まず不整脈部門から心房細動にたいする肺静脈カテーテル離断術中の心腔内の観察に協力して欲しいという 依頼があり、アブレーション前後で肺静脈を記録した心腔内エコーの解析を始めました。肺静脈の入口部は心房 の挙動とよく似た周期的な運動をしており、それは肺静脈血流のパターンとも矛盾がありませんでした。そして 、アブレーション直後にはこの周期的な変動は減弱し、血管径自体も狭小化することが観察され、その他の所見 と併せて焼灼の直接的な影響として肺静脈に浮腫性の変化がおこっている可能性が示唆されました。
 この研究を通じて知り合った不整脈部門のリサーチフェロー(当時)のDr. Bazazから続いて共同研究の誘い がありました。心臓再同期療法(CRT)の大規模試験の結果が次々と発表されている時期で、両室ペーシングに ある一定の効果があるという確証が得られつつありました。しかしそのメカニズムについては未知のことも多く 、我々は僧帽弁逆流の減少に関する研究から手をつけることにしました。彼の助けを借りてペーシングオン・オ フで心エコー法を用いて観察していると、僧帽弁逆流は瞬時に変化するのに、左室自由壁の位置はほとんど同じ としか思えませんでした。それで左室自由壁~乳頭筋の動くタイミングに問題があるという仮説で新しいプロジ ェクトがスタートしました。左室局所の挙動について組織ドプラ・ストレイン・ストレインレートを用いて、G EやTOSHIBA、当時試作でソフトをもってきていたACUSONなど様々な機種の上で繰り返し解析して いましたが、メカニカルに収縮が伝播していく過程は、全く理解不能でした。しかし、これはGE社製ソフトがバ ージョンアップして、ノイズのフィルタリングや3心拍自動平均などの機能が強化されると、これまでノイズや アーチファクトに埋もれていた、ストレインのピークがある程度の確率で取り出せるようになりました。そして CRTの結果、乳頭筋付着部付近の心筋のストレイン・ピークのズレが改善し、このことと僧帽弁逆流の変化と の間に有意な関係が認められることから、両室ペーシング直後の僧帽弁逆流の減少に弁下組織の協調運動の改善 も関係しているらしいとの説明を得ることができました。
 このほかにも、これらの仕事を通じて、ピッツバーグ大学循環器科内でCT・MRI、不整脈部門、心不全・ 移植部門、エコー部門で一つの大きなワーキンググループが設立され、共同研究への流れとなった局面に立ち会 うことができたことや、集中治療室のProf. Pinskyが我々の組織ドプラの研究に興味を持ってくれて、IRBの 取得まで指導してくれた上、犬を用いた動物実験で右室ペーシング(LBBBモデル)と両室ペーシング(CR Tモデル)の間で、TOSHIBA Aplioを用いた組織ドプラ・ストレインやコンダクタンスカテーテル を用いた圧-容積関係の比較を行うことができるなど、いくつもの幸運に恵まれました。ただ、惜しむらくは苦 労して準備を進めてきたにも関わらず、これらが軌道に乗ってきたときには既に帰国の日が迫っており、留学の 常とはいえ大きな心残りでした。
 幸い、帰国後は宮武先生、中谷先生をはじめとして、かつて教えを受けた先生方がそのまま在任されておられ る国立循環器病センターに暖かく迎え入れて頂いたことは、大きななぐさめとなりました。また、これら留学中 の成果を学会や論文、講演などで発表させて頂くこともできました。
 このような貴重な機会を与えて下さった日本心エコー図学会や諸先生方に大変感謝しております。また、今後 これらの経験や知識が、微力ながらも、さらなる医療・心エコー図の発展の一助となることがありましたら、こ れほどの幸せはありません。(時点)

[経過報告]

 私は2001年10月より、米国ペンシルバニア州ピッツバーグ大学循環器科の心エコー部門に留学しています 。皆様もご存知の通りここピッツバーグ大学は米国でも有数の移植施設であり、重症心不全の治療方針の決定に おいて心エコー図の果たす役割は大変重要視されています。現在、もう一人の研究者と共にDr. Gorcsanの指導 のもと、主として組織ドプラ法を用いた解析を行っていますが、心機能評価や局所壁運動評価を通して心臓の挙 動の詳細を明らかにする試みで、基本的には国立循環器病センター時代の仕事の延長になります。Dr. Gorcsan を始めとしたスタッフドクター、心エコー検査にローテートしてきているクリニカルフェローや同僚、技師さん 達は皆親切で、厳しい雰囲気の中でも暖かな言葉にいつも励まされています。ここには米国国内だけでなく、中 東や亜細亜からも多国籍の人々が集まっており、その優秀さには圧倒されることもしばしです。今回の留学で心 エコー図の技術や知識の取得のみに留まらず、様々な出会いを通じ、人生の糧となるような経験ができましたら 幸いです。またこのような機会を与えてくださった貴学会からの助成や皆様の応援に心より感謝し、日々の努力 を続けて参りたく思います。


園田 信成

[帰国報告]

 私は平成13年6月から平成16年3月まで米国カリフォルニアにあるスタンフォード大学循環器科で臨床研究 を行ってきました。研究内容は主にカテーテルインターベンションのニューデバイスに関する大規模試験のデー タ解析に携わり、特に血管内超音波(intravascular ultrasound: IVUS)の研究をして参りました。私が留学し た時期は薬物溶出性ステントの研究開発が始まったばかりの頃で、当然私自身の研究もこれに関するものが中心 となりました。ご存じのように、同時多発テロ、イラク戦争、SIRS、狂牛病と世界と米国の中でいろいろな事件 が起こった時期で、何度も途中帰国しようかと思いながらも、計約3年間をがんばって参りました。その間に日 本心エコー図学会様より海外留学助成金を頂き、米国での大変厳しい生活事情に対して補助をしていただきまし たことに深く感謝申し上げます。現在すでに日本での臨床業務に戻っていますが、米国で得た知識、研究成果は 今日の日本における日常臨床に非常に役立っております。また学会、ライブ、講演などを通じて得られた研究デ ータなどの発表も行って参りました。
 循環器領域での臨床雑誌である、Journal of the American College of Cardiology (JACC)に研究内容の一部 をパブリッシュしておりますのでご参照いただければ幸いです(J Am Coll Cardiol 2004;43:1959-63)。以下 にその研究内容を簡単に報告いたします。
 SIRIUSトライアルは米国で行われた多施設共同研究で、native coronaryの新規病変を対象として、再狭窄予 防におけるsirolimus eluting stent(SES)、いわゆるCyper stentとbare metal Bx Velocity stent(BMS)の 成績を比較したトライアルである。BMS時代において、IVUSにおけるpost-procedural minimal stent area(MSA )はその後のステント再狭窄における重要な予測因子であることが示されてきた。しかし再狭窄過程における様 々な生体的な要因(例えば糖尿病等の危険因子や病変性状等)によって影響を受けるため、その予後予測には限 界があった。一方、drug-eluting stent(DES)は、stent自身の持つmechanicalな拡張特性に加えて、薬物によ る新生内膜増殖抑制作用を併せ持っており、DESにより、MSAはより正確に再狭窄を予測できる重要な因子となる 可能性が考えられる。我々は、SIRIUSトライアルのIVUSサブスタディにおいて、SES植え込み後の長期成績予測 におけるfinal stent dimension、いわゆるMSAの有用性についてBMSと比較検討を行った。狭心症患者をランダ ムにSESとBMSの2群に振り分け、Baseline211例とFollow-up180例にIVUSが行われ、その中でserial IVUS解析が できたのが全141症例で、NURD等の影響で定量評価の比較が困難であった19症例を除いた、計122例(SES 72例 、BMS 50例)が今回の解析の対象となった。IVUSはボストンサイエンティフィック社とVolcano社製の2機種を 使用した。Automatic pullbackで記録を行い、ステント植え込み後と8ヶ月後の連続IVUSデータを比較した。 IVUSでの計測部位は、ステント植え込み後の最終のMSAとfollow-up時のminimal lumen area(MLA)で、また両側 のreference areaも計測した。Follow-up時における十分なステント開存の指標として、以前の臨床データをも とにMLA>4mm2を使用した。2D-IVUSにおける計測項目は、ステント面積、血管内腔面積と新生内膜面積、% stent expansionと%neointimal areaをそれぞれ算出した。
 臨床的、手技的な項目についての比較の結果はBMS群、SES群の2群間においてほとんど差はなかったが、final balloon sizeについてはBMS群で有意に大きい傾向が認められた。ステント植え込み後の最終のIVUS計測項目の 結果はreference lumen area、MSA、%stent expansionは2群間で有意差は認められなかった。8ヶ月フォローア ップ時におけるIVUS所見の結果では、MLAはBMS群で3.6、SES群で5.3mm2とSES群で有意に大きく、%neointimal areaもBMS群で36.2%、SES群で8.5%とSES群で有意に少ない傾向が認められた。
 植え込み時とフォローアップ時におけるLate lumen lossは、 BMS群で2.4mm2、SES群で0.6mm2とSES群で有意 に少ない傾向が認められた。%neointimal areaの分布は、 BMS群の新生内膜増殖抑制反応は多様で、ほぼ正規 分布に従っており平均32%であったが、SES群の反応は一様でほとんどが10%以下に抑制されていた。Post procedure MSAとfollow-up MLAの相関については、両群ともに有意な正の相関が認められたが、SES群では1:1 に近い正の相関であり、個々の様々な病変においても一様に新生内膜増殖抑制作用が認められていることが示唆 された。follow-up時のMLAが4mm2以上を慢性期のステント開存と診断した場合、それを予測しうるpost procedure MSAの至適cutoff pointはBMS群では6.5mm2、SES群では5.0mm2であった。それぞれのcutoff pointに おける慢性期のステント開存の予測能はSES群では90%と非常に高値であったが、一方BMS群では56%にしか過ぎ なかった。また、ステント植え込み後のMSAの絶対値と、血管径との比から求めた相対ステント面積(MSA/REFVA )の間で、慢性期のステント開存の予測診断能を比較検討するためROCカーブによる解析を行った結果、MSAの絶 対値の方がより精度の高い指標と考えられた。
 reference vessel径が2.8mm未満の小血管群において同様の解析を行ったところ、follow-up時のMLAが4mm2以 上を予測しうるpost procedure MSAの至適cutoff pointはBMS群では6.0mm2、SES群では4.5mm2であった。  結論として、このSIRIUS IVUSサブスタディの結果、post procedure MSAは、DES時代において、慢性期ステン ト開存を予測診断する上で、BMSより精度の高い指標となると考えられた。BMSで認められた再狭窄過程における さまざまな生体的な要因がdrugにより抑制されることにより慢性期ステント開存の予測におけるpost procedure MSAの至適cutoff pointはSESではBMSよりも小さく、DES時代においては、BMS時代に求められたaggressiveなス テント拡張を追加する必要性は低いと考えられた。
 以上研究報告とさせていただきます。この度は誠にありがとうございました。

[経過報告]

 私は本年6月末より、米国スタンフォード大学医学部循環器内科内のCenter for Research in Cardiovascular Interventions (CRCI) という研究室に留学しています。本研究所は血管内超音波を中心に心血 管イメージング領域における研究や新技術開発、さらには多施設共同研究の中心として様々な大規模臨床研究の 解析を行っています。渡米してから約2ヶ月が経過し、言葉の壁をはじめとした様々なトラブルに直面しながら 、ようやく私の研究生活がスタートしつつあります。私の研究テーマである血管内超音波を用いた冠動脈硬化プ ラーク性状解析に関しては装置の開発や臨床応用に向けた動物実験が現在行われており、今後の更なる発展に向 けて貢献出来るようにしっかり頑張っていきたいと考えています。今年の日本は猛暑、激暑と聞いていますが、 この辺りの気候は西海岸の中でも抜群に良く、非常に快適な日々を送らさせていただいております。しかし反面 、家賃は全米一高く、ご存じのごとくエネルギーショックのため電気、ガス代は高騰しているため、非常に苦し い生活事情となっています。今回の留学を通じて、心血管イメージングの研究だけでなく、語学学習や異文化体 験をしつつ、生涯の糧になるような人生経験が出来れば幸いと考えています。最後に貴学会からの海外留学助成 によりこのような貴重な経験をさせていただくことに対して、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。


山田 博胤

[帰国報告]

クリーブランドクリニック留学記
 私は平成13年3月から平成16年7月までの3年4ヶ月間,米国オハイオ州にあるクリーブランドクリニッ クファウンデーション(CCF)にResearch Fellowとして勤務しました.留学に際しては,日本心エコー図学会から も助成をしていただき,ここに厚くお礼を申し上げます.
 さて,私が留学していたCCFは,その名の通り私立の財団で,1921年に4人の医師によって開設された小さな クリニックが,今やU.S. News & World Report's 誌の"America's Best Hospitals"で循環器部門としては,こ の10年間連続で全米1位にランキングされる医療施設となっています.私は循環器内科の心血管画像部門に所 属していました.この部門のトップはご存知James D. Thomas先生です.彼の下にいるスタッフもまた学会でよ く名前を知られた医師たちばかりです.このような医師たちは,患者の診療に忙しいので,実際に手足となって 研究活動をしているのは,彼らの下のクリニカルフェローや,リサーチフェローでした.クリニカルフェローは ,たいてい2年間のプログラムで研修をしている比較的若い医師たちで,リサーチフェローは,―私もその一人 であったのですが―世界各国から集まってきて主に研究活動をしている医師や,工学士です.私が滞在した間の リサーチフェローは,フランス,ブラジル,ベルギー,ユーゴスラビア,イタリア,中国,韓国,タイ,中国, 日本の各国からやってきていました.
 私の所属していた心エコーのラボは,臨床で年間4万件以上の検査,そして3千件以上の研究のための検査を しています.この膨大な数のエコー検査は,ほとんどが超音波検査技師(Sonographer)によって行われます.臨 床で20人以上の検査技師が働いており,エコー室専任の看護婦さんが4人います.その他に,研究専門の検査 技師さんが5人,ナースが6人,コーディネーターが3人いて,臨床治検を含む研究用のエコー検査を行ってい ます.エコー室は全て個室で,メインのクリニックには12の部屋がありました.各部屋で行われたエコー検査 の動画像,静止画像は,すべてサーバーに転送されデジタルで記録されます.エコー室のみならず,外来,手術 室,心臓カテーテル室などでの検査も同様に全てのデータがサーバーに飛ばされます.さらには,近隣の6つの サテライト病院で行われた検査結果も転送されます.これらすべてのデータが,医師,検査技師の机上のコンピ ューターからアクセスして閲覧することが可能で,計測や動画像,静止画像の書き出しなどもできます.実験で 行った心エコー検査の結果も全てこのサーバーに転送しておき,後から必要なデータを取りだして計測していま した.
 何か研究したいと思っても,アメリカでも日本と同じでお金がないと何も始まりません.私が留学したときは 自分で研究費を獲得できなかったので,自分からは研究を立ち上げることは不可能でした.それに上司のThomas 先生からは何をやりたいのか,とは聞かれることはあっても,これをしなさい,という指示は全くありませんで した.しかし,幸いなことに前任者の田畑先生が電気生理グループと共同研究をしており,それを引き継がせて 頂くことができました.
 その一つは,迷走神経刺激を使って慢性心房細動の心拍数コントロールをしようという研究でした.田畑先生 は急性の実験をされていたのですが,私は犬に2種類のペースメーカー(1つは迷走神経を刺激,もう一つは心 房細動を誘発する)を植え込んで,迷走神経刺激による徐脈化効果が慢性的に維持されるかという慢性実験をし ました.この実験のPI(主任研究者)は,心臓電気生理グループのTodor N. Mazgalev先生というドクターでし た.彼の肩書きは,MDではなくPhDで,患者を診ることはなくもっぱら研究を行う職業研究者です.収益を上げ ることが大前提の私立病院に,診療をしないスタッフがいることは驚きでした.MDと違って比較的時間に余裕が ある分,細かい指導をしてくれましたし,論文の下書きをMDに持って行っても数ヶ月待たされることがあります が,彼は必ず2,3日以内に返してくれました.彼との実験では毎週1度犬の心臓をエコーでモニターするので すが,彼らが欲しいのは左室径と駆出率くらいなので,拡張能の指標や組織ドプラ法など余分に記録しておいて ,それを自分のデータとして発表することもできました.
 もう一つ田畑先生がRichard A. Grimm先生とされていた実験がありました.それは,犬を一定の時間心房細動 にして徐細動し,その後の左房スタニングの回復を電気的,そして機械的な両面から検討しようという実験です .私が引き継いでから,ビタミンCを検討に加え,心房細動のスタニングの程度や回復にビタミンCが有効であ ることを報告しました.
エコーグループにいるので,純粋なエコーの研究もしたいと思い,スタッフの先生のところにいって仕事を探し ました.その結果,Allan L. Klein先生からクリニカルフェローがやり残した仕事があるから仕上げてみるかと 言われ,データを足し解析をやり直して,左室拡張異常の分類に関する論文をアメリカ心エコ-図学会誌に投稿 しました.Klein先生はその後も論文作成の面倒をみてくれており,先日も当直中に携帯電話に電話をかけてこ られて驚かされました.
 また,スタッフの中に東京大学出身のTakahiro Shiota先生がいます.当時Shiota先生は,NIHと共同研究をさ れていて羊の心筋梗塞モデルのエコーデータを集めておられたので,お願いして組織ドプラ法も記録して頂き, それを解析することも行いました.Shiota先生とは,その後も僧帽弁輪の自動追尾プログラムを使った研究など を行いました.
 Mazgalev先生と研究をしているときに同じ電気生理グループのDon W. Wallick先生と知り合いました.彼も PhDで,実験のプロトコールを作る段階から私の意見を取り入れてくれ,実際の実験手技も私の主導で行わせて くれました.彼と始めたのが,Coupled Pacingについての研究です.まず開胸麻酔犬を用いた急性の実験を行い ,心房頻拍および心房細動においてCoupled Pacingによりレートコントロールが可能であることを報告しました .その次は開胸麻酔犬でCoupled Pacing中の心筋代謝を測定する実験を行いました.この一連の実験からは,第 1著者で2編の論文を掲載できましたし,北米ペーシング電気生理学学会(NASPE)で発表したところ,最優秀 抄録賞を授賞することができました.
 そうやって電気生理グループに出入りしていると,電気生理の臨床の先生とも接する機会ができました. Andrea Natale先生は,心房細動の肺静脈電気隔離術(PVI)で有名です.彼はその術中に心腔内エコー法を使って いました.そこで,私は心腔内エコーを使って肺静脈隔離術前後で血行動態を検討しました.
 その他にも,福岡大学から循環器の分子生物学に留学されていた竹迫先生との共同研究でトランスジェニック マウスの心エコーをしたり,電気生理学のもう一人のスタッフYuanna Cheng先生とウサギの心筋梗塞モデルを作 ってDor手術前後での心機能を評価する実験, Thomas先生がNIH grantに提出するための予備実験としての犬を 使っての両室ペーシングや心臓のtorsionの検討,Leonard Lodriguez先生と左房機能についての動物実験など, さまざまな研究を通じて多くの先生方と仕事をすることができました.
 この留学で,日本では学べない多くのことを勉強しました.アメリカだからということもたくさん経験しまし た(留学中に9・11もありました).そして,多くの人に出会い,友人になりました.この経験や友人は,こ れからの私の人生にとって大きな糧となると思います.最後になりましたが,このような機会を与えてくださっ た多くの先生方に感謝しています.そして,自分の仕事を犠牲にして私の留学につきあってくれた妻と,元気で いつも私を和ませてくれた子供たち3人,わがままを許してくれた母に感謝して,留学記を締めくくりたいと思 います.

[経過報告]

 私は、2001年3月より米国オハイオ州クリーブランドクリニックの心血管画像部門に留学しておりま す。Dr.James Thomasの傘下に所属し、Dr.Richard GrimmやDr.Allan Klein、Dr.Leonardo Rodriguezらと共に研 究をしています。現在のメインの研究テーマは、前任の田畑智継先生(現徳島大学)からの引き継ぎで、心房細 動およびその除細動後における心房機能についての検討です。犬麻酔開胸心に各種圧カテーテル、電極をとりつ け、ペーシングあるいは迷走神経刺激により心房細動を維持し、経食道・心腔内エコー法などを用いて、ドプラ 法、組織ドプラ法により細動中あるいは除細動後の心機能を評価しています。徳島で臨床研究をしていた頃は、 動物実験ならすべての条件を揃えることができ、きれいなデータが得られるだろうに、と思っておりましたが、 はてさてそういうわけにはいかず毎日苦労しております。さて、本施設はUS News & World Report誌の病院 ランキングで循環器部門7年連続1位と評価されました。私の他にも、各国から多くの医師が留学してきており ます。素晴らしい環境のなかで、著名な指導者のもと、彼らと切磋琢磨しながら研究できることは、私にとって 留学しなければ体験できなかった貴重な経験です。貴学会からの助成に感謝し、心エコー学の発展に貢献できる よう日々研鑽したいと思います。


■ 平成12年度(第3回) ■

松木田 慶子

[経過報告]

 2000年9月から米国カリフォルニア州ニューポートビーチ市のHoag病院において、Pravin M. Shah先生のも と、経食道心エコーによる術中診断を学んでいます。当病院では昨年僧帽弁逸脱症に対する僧帽弁形成術を約50 症例行っており、心臓手術における経食道心エコーによる術中診断は欠かせません。閉塞性肥大型心筋症に対す るMyectomyの手術でも術中経食道心エコーにより切除範囲を再検討し、術後は収縮期僧帽弁前方運動SAM、圧較 差を評価し、必要であれば引き続き手術操作を追加しています。手術室では心エコーの画像を見ながら外科医、 麻酔科医、心臓内科医でディスカッションをしますので、理解しやすく勉強になります。Hoag病院でリサーチを 目的に仕事をしているのは私ぐらいで、臨床の場で働く医師やソノグラファー、その他病院のスタッフの協力を もらいながら、僧帽弁形成術に関する研究も行っています。ニューポートビーチは気候もよく、安全性も高く、 また私は病院のスタッフにも恵まれ、良い環境でじっくり勉強できます。貴学会から海外留学助成を受けまして 、このような貴重な経験ができますことをたいへん感謝いたしておりま す。/p>


■ 平成11年度(第2回) ■

浅沼 俊彦

[経過報告]

 私は現在、米国ミネソタ州のメイヨークリニックに留学しています。メイヨークリニックのCardiac Ultrasound Imaging and Hemodynamic LaboratoryはJames B. Seward先生のもと、50人以上のソノグラファーと 30人以上のコンサルタントとフェローがいる、たいへん大きなラボです。超音波に関する研究では、 Echocardiography Clinical Research Center (ECRC)、BasicUltrasound Research Lab (BURL)、そして Translational Ultrasound Research Unit (TURU)という3つの部門をもっています。文字通り、ECRCは臨床、 BURLは基礎的な研究を行うわけですが、TURUはこの基礎の領域と臨床を橋渡しする役割を担う部門です。基礎の 領域で新しく開発された技術が臨床で使用されるためには、その十分な裏付けの研究が必要となりますが、TURU はこの領域をカバーする目的で、98年に設立されました。私は現在このTURUに所属し、コントラストエコーに関 する研究を行っています(大阪市大の竹本先生も同じラボです)。
 日常の診療や研究ももちろんですが、ご承知のように、ここメイヨーは特に教育プログラムにも力を入れてい て、さまざまな講演や研究会が毎週主催されています。貴学会からの海外留学助成により、このようなたいへん すばらしい環境のもとで働けることができ、とても感謝しております。この場をお借りして厚く御礼申し上げま す。


竹本 恭彦

[経過報告]

 このたびは、日本心エコー図学会海外留学助成金をお受けし、誠に有り難うございました。私は、現在、 メイヨークリニック心エコーラボにて、研究留学をさせて頂いております。メイヨークリニックは、その名が世 界中に知れ渡る大変著名な医療研究機関ですが、その存在場所は、米国ミネソタ州の南東に位置するロチェスタ ーという小さな街です。人口約10万人で、メイヨークリニックが存在するので、この街が存在するといって過 言でないと思われます。メイヨークリニックキャンパス周囲には多数のホテル群が連なっていますが、それは全 米各地はもとより世界中よりひきもきらず集まってくる患者さんのために作られているとの事です。このような 環境の中で、現在私は3次元エコーを用い、さまざまな解析を行なうという仕事をさせて頂いております。メイ ヨークリニックは臨床そして研究が盛んに行なわれているのは勿論のこと、教育もそれらにもまして盛んに行な われており、毎日必ずどこかで講演(たくさんの著名な研究者がやってきます)、カンファレンス、勉強会等々 が行なわれております。このような素晴らしい環境の中で勉強させて頂ける事を心から感謝し、自己研鑽に努め て参りたいと考えております。重ねまして、貴学会から留学助成をお受けしましたことに対しまして、厚く御礼 申し上げます。


■ 平成10年度(第1回) ■

加地 修一郎

[経過報告]

 私は現在、スタンフォード大学医学部の心臓血管内科に留学しています。ご存じのようにスタンフォード 大学はサンフランシスコの南、シリコンバレーと呼ばれる地域にあります。私は、Bob S. Hu先生のもとで、 Forward-viewing Intravascular Ultrasoundをはじめとした心臓血管イメージングの研究をしています。
 私自身は卒業後5年間ずっと病院に勤務していましたので、日本の大学医局を良く知りません。ただ、日本の 大学医局での研究は医師が圧倒的多数ですが、スタンフォードの心臓血管内科を見る限り、医師以外に、 Research assistantや学生をはじめ様々な人が研究に従事している点が大きく異なるように思います。なかには 医学部を休学して、最先端の研究をしている学生もいます。もちろん人種も様々で、中国系をはじめとして、世 界各地から集まっています。日本人のように、ある期間がたつと帰国するというのは例外的で、アメリカ以外か らきた人々の多くはこちらでの永住を望むようです。したがって、競争が非常に厳しいことはいうまでもありま せんし、それが高い研究水準を維持しているのだと思います。自分の研究はようやくスタートしたところです。 何とか結果を残せるよう頑張りたいと思います。
 最後になりましたが、今回の留学助成に際して、日本ヒユーレットパッカード社および日本心エコー図学会事 務局にお礼を申し上げます。


金丸 浩

[経過報告]

 私が南カリフォルニア大学付属のロスアンゼルス小児病院にきて、早5ヶ月が過ぎました。カリフォルニア は非常に人種が多彩な都市で、患者さんもスパニッシュをはじめ、世界中の子供達が集まっているのではないか と錯覚してしまうほどです。
 循環器疾患の子供達は地域にとどまらず、州外ときにアメリカ国外からの入院受け入れもしています。心臓外 科手術の子供達を対象としたICUが、一般のICUと独立して設けられており、心肺移植を対象としたベッドも2床 独立して用意されています。術前の食道エコーによる心機能、解剖のチェックは、ASD、Unifocalizationを除い た多くの先天性心疾患において施行されています。移植患児については、左房の動きなど評価しづらいところも 多く、心機能評価の難しさを改めて感じているところです。
 小児の心機能評価、特に移植患児におsるそれは、日本の現状からみて、我々日本の医師にとって海外の情報 が不可欠と考えられます。貴学会からの留学助成により、こうした研究を続けられることに感謝しております。


下堂薗 信一

[経過報告]

 私は、第一内科学教室より米国スタンフォード大学へ留学する機会を与 えていただきMedical Center内のCenter for Research In Cardiovascular Interventions という研究室に所属 しています。この度は日本心エコー図学会より第一回海外留学助成ヒューレットパッカード賞をお受けし、心よ り感謝いたしております。私の所属している研究室では 血管内超音波(Intravascular Ultrasound)を中心に Coronary Interventionの研究がなされています。私たちの研究室では世界中から集まってきた多施設共同研究 (Multicenter Study)でえられた血管内超音波画像(IVUS)を解析するという仕事をしています。日本からも 画像が送られてきていて日本でとられたIVUS画像を海を隔てた研究室でまた、日本人が解析していると考えると 感慨深いものがあります。その他、新しい血管内超音波画像解析ソフトの評価、動脈壁性状のRadio Frequency 信号の解析に基づいた評価、実験動物を使って移植血管のVasculopathyの評価を行ったり、新しいIntervention Deviceを実験動物や臨床例に実際に試したりなどの仕事をしています。今後、血管内超音波だけでなく広く循環 器、そして、アメリカの文化を吸収し、しっかり勉強して帰りたいと思います。